エンタメ

<マンガ>“ドラマ現場の待ち時間の悲劇・前編”「小野寺ずるのド腐れ漫画帝国 in SPA!」~第五十二夜~

ドラマの裏側を知りたい――。そんな読者も多いのではなかろうか。大物俳優やアイドルや、末端の役者まで、撮影直前に集まる“前室”では、どんな会話が繰り広げられるのか。“表現者”と称しながら、普段はとっても引っ込み思案な小野寺ずるが、撮影前室でおきた悲劇を語る。

ドラマ現場の待ち時間の悲劇

こんばんは。 小野寺ずるです。 私はお漫画家であり、お役者でもあります。知名度こそございませんが、時折、ドラマやCMに出演しております。皆様がご覧になっていたTV、画面後方で見切れながらうなずいてる、驚いてる、毎週一言だけ発するメガネのアイツは、もしかしたら私だったかもしれません。 さて今回は、「ドラマ現場の待ち時間での出来事」について書かせていただきます。

魔の5分間が始まる

「待つことこそが役者の仕事」 これは業界の通念である。撮影現場ではお芝居の時間より、待っている時間の方が長いことは常識だ。 長い待ちであれば楽屋に戻る役者もいるが、「機材セッティング待ち」など5分程の短い待ちは楽屋に戻ることもできない。 皆が知っている名優や、お茶の間のスター、ファンが何万といるアイドル、 ……そして私のような誰かわからない人間が、近い距離でじっと待ってなくてはならない。 例えば、この日が「初めまして!」という老若男女が、手持ちぶさたを共に過ごすということ、これすなわちなかなかタフなコミュニケーションが必要になってきます。「仕事なんだし別に仲良くする必要なくね?」と思う方もいらっしゃると思いますが、役者というのは初対面なのに愛を囁きながらベッドインし、その次の日には殴り合いをしたりする仕事なので、そうもいかない。 仲良くなるまでいかずとも会話をし、その人の声やリズム、誰しもにある”存在の圧”に慣れることは(役にもよるが)重要かもしれない。 「今日寒いですね」 「そうねえ」 「明日ロケ心配ですね」 「ほんとよねぇ(笑)」 情報が特にない会話をして最後は声を出して笑う。このようなパターンの会話が多い。はたから見たら上辺だけの会話かもしれないが、声を交わす、リズムを重ねる、視線を合わせる、”人間情報”の洪水である。これは非常に大きな一歩で、私は話せていつも嬉しくなる。私のような小心者は調子に乗らないと何もできないから、人の笑顔に助けられるのだ。
次のページ
笑顔がつくれない私
1
2
'89年宮城県出身の役者、ド腐れ漫画家。舞台を中心に活躍後、'19年に「まだ結婚できない男」(関西テレビ)で山下香織役、'20年「いいね!光源氏くん」(NHK)で宇都宮亜紀役など、テレビドラマでも活躍の場を広げる。また、個人表現研究所「ZURULABO」を開設し、漫画、エッセイ、ポエムなどを発表。好きな言葉は「百発百中」。 Twiter:@zuruart


記事一覧へ
おすすめ記事