システムに踊らされてるんじゃない。俺は自覚的に踊ってるんだ。
――それはヤバイですね。でもヤバイシステムだとわかっていても、やめられない?
青柳 もう受け入れるしかない。そう言われても「じゃあ他のどの仕事なら稼げるの?」って思っちゃうんですよ。そのぐらいUberの「いつでも、どこでも」という身軽さには、どんな理屈も敵わないというか。頑張って週に10万円稼いだこともありますから。
――でもクエスト達成するには、3日間で70件も配達しなければいけない。体はもうズタボロじゃないですか?
青柳 でも「あと2件でインセンティブ!」ってアプリに言われたら、頑張れるじゃないですか。当然、その時点で疲れ果てているんですが、「俺の体は壊れてもいいから、あと2件!」って、凄くハイになれて。心はハイでも、体は廃人なんですけどね(笑)。インセンティブはもちろん嬉しいんですが、クエストというゲームをクリアする快感のほうが大きいですね。
――そのインセンティブはいくら?
青柳 1万5千円です。
――体がズタボロになる代償が、たかが1万5千円。でもそれがゲーム性を帯びてるとは本当に怖いシステムですね(笑)。
青柳 中毒ですよ(笑)。保険や保証に関して戦ってくれているウーバーイーツ・ユニオンという団体があるんですが、そこにはなかなか人が集まってなくて。むしろ、「ユニオンのヤツら、何勝手に言ってるんだ。そんなこと言ってたら、雇用化の流れが進んじゃうじゃねえか」とか、「服装自由とかクエストとかUberの面白さがなくなっちゃうじゃねえか」っていう声が配達員側から出てるんですよ。
――当の配達員たちが「このままでいさせてくれよ!」って(笑)。
青柳 そうなんですよ。「自己責任でいいじゃねえか!」「それよりも俺たちに自由を!」って。そういった意見に共感してしまう自分もいますが、それでも絶対に保険や保証はされるべきだと思っています。
――映画のなかで「青柳君ははっきり言って貧困層だよ」と言われても、監督は「でも、やるんだよ」的な言葉で返したじゃないですか。本当にそうだなって思いました。
青柳 自分たちは使い捨てだというのもわかってるし、だからこそ状況を変えなきゃいけないと思うんです。でも、どうしたらいいかわからない。とりあえず稼がないといけない。僕は映画のなかでクエストをクリアすることを「掌握する」と表現しました。「Uber Eats」のクエストというシステムに踊らされてるだけかもしれないけど、少なくとも僕は自覚的に踊ったつもりです。
――それゆえの「掌握」という表現だったと。ちなみに、配達員はまだやってるんですか?
青柳 はい、今もやってます。映画の宣伝ラッピングを作ったのでそれを「Uber Eats」のバッグに巻いて宣伝しながら配達してます。特に歌舞伎町方面で配達やってるので、見かけたら声かけてください! そして映画『東京自転車節』、ぜひご覧ください!!
取材・文/村橋ゴロー
■『
東京自転車節』
2020年3月。青柳監督は代行運転で生計を立てていたが、コロナ禍で仕事がなくなってしまう。そんなときプロデューサーから自転車配達員の仕事を撮ってみないかと声がかかる。しかし、仕事の現場は感染者数が日に日に増えていた緊急事態宣言下の東京。感染しないようにとおばあちゃんが縫ってくれたマスクをして、外出自粛で人がいない街を駆け抜ける。半径2メートルの配達員視点にあって、東京の真の姿までもが浮き彫りになる路上労働ドキュメンタリー。
制作年:2021
監督:青柳拓
2021年7月10日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開