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デブ、チビ、ハゲはネタにできない?芸人の容姿いじりはどこまで許されるのか――2021年ベスト5

お前はもうひとネタ持ってる……けどな

本多正識

吉本NSCでは「伝説の講師」とも呼ばれる本多正識氏。数多くの芸人を育て上げ、多くの芸人から慕われる

 この「容姿いじり論争」に関して、答えはあるのだろうか。芸人たちの育ての親として、数多くの芸人を育て世に送り出した吉本総合芸能学院(通称:NSC)の講師、本多正識さんに話を伺った。数々の人気芸人を育てただけでなく、オール阪神・巨人の漫才を38年も作り続けているという”裏方のプロ”は、昨今の容姿いじりをどう考えているのだろうか。 「かつては、デブ・チビ・ハゲのような身体的特徴は、芸人としての武器になったので、身体的特徴のあるNSCの生徒には『君はもうひとネタ持ってるから、それを武器にできるよ』と教えていました。でも最近は、『ひとネタ持ってる』と教えた後に『でもな、迂闊に使うと炎上するからネタの使い方には気をつけて』とアドバイスしています。  いじってほしい芸人が多いし、それで笑いをとるのは常套手段だったのですが、時代が変わり、世間が差別的な発言を許さなくなりました。今でも身体的特徴は芸人にとって武器になるとは思います。しかし、若い芸人が早い段階で炎上してしまうと、萎縮して才能が潰されてしまうパターンがあるんです。だからなるべく炎上しないよう、どのようにネタを作ったらいいのかを指導しています」  ネット上には「容姿いじりはいじめを助長する」といった声が見受けられる。番組的には盛り上がりを作っている自虐のネタでさえ「不愉快だ」という声も増えてきた昨今。今のお笑いに求められるものは全く変わってしまったのだろうか。 「芸人は身体的な特徴をネタにするときに、高度な技術が必要です。例えば若かりし頃のオール阪神・巨人のネタで、身長の低い阪神さんがアンケートに答える際…巨人:『(年齢は)いくつですか?』阪神:『35です』巨人:『1メートル?』阪神:『誰が身長の話してんねん!年齢や!』みたいなやり取りがありました。このような形で、いかにさりげなく、そして面白く料理していくかという技術が、今後はより一層必要となってくるでしょう。  今の世間には、直接的にデブ・チビ・ハゲと言ってしまうと嫌な思いをさせてしまうので、それをいかに自然な流れで生かしていくかが、今のお笑いに求められていることだと思います」

容姿いじりを一蹴してしまうのは簡単だが……

本多正識

NSCで若手芸人たちに指導する本多正識氏

 世間の声が簡単にネット上で浮き彫りになるようになった現代で、お笑い界は変わり続けている。そういった声は、やり過ぎだったあの時代から、「まともになっている」とも言えるかもしれない。ただ、容姿いじりを「差別だ!」と一蹴し、倫理的に抹殺してしまうのは少し残念な一面もある。先日放送されたラジオ番組にて、オアシズの光浦靖子はこんなことを語っていた。 『田舎にいるときは、自分でブスですなんて言えなくて、隠さなくちゃいけないことだと思っていたんです。10代で初めてお笑いライブを観たとき、そういったことを武器にして、中央でスポットライトを浴びている姿をみて、もう目から鱗で……。こんなに素晴らしい手法があったのかと。この世界をユートピアだと思った』  芸人の容姿いじりは、簡単に「差別」という言葉が使われるようになった。しかし過度な抑え込みは、逆にコンプレックスを抱えていじめにあっている子供から、お笑い界という大逆転の場を奪ってしまっているとも考えられる。許容される範囲が狭まり、芸の幅、そして人が生きていける世界の幅が狭くなっていることも、世間の人は考えなければいけない。 〈文/セールス森田〉
漫才作家。'84年、オール阪神・巨人の台本執筆を皮切りに、漫才師や吉本新喜劇に多数の台本を提供。'90年吉本総合芸能学院(NSC)講師就任。担当した生徒は1万人を超える。著書に『吉本芸人に学ぶ生き残る力』(扶桑社刊)などがある

吉本芸人に学ぶ生き残る力

NSC講師として1万人以上の生徒を送り出した伝説の講師が教え子たちに教えた生き抜く術とは

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