園子温式オーディションは型破り?
映画『エッシャー通りの赤いポスト』より
――今回のオーディションはどんな感じでしたか?園監督だけに型破りなイメージがあるのですが。
小西:他のオーディションと一番の違う点は、長ゼリフですかね。特に女性陣は大変だったと思います。藤丸さんが演じた安子役なんて、ほぼモノローグに近かったですし。
藤丸:実技のオーディションは3日間やっていて、私は2日目に呼ばれたんですが、1日目が終わった時に台本が急に変わり、「セリフが追加されました」というメールが来て…。しかも安子のオーディション・シーンが長ゼリフで、(スマホを)どんなにスクロールしても終わりが来なくて(笑)。それでも、どうにかこうにか覚えて、翌日、大雨の中、オーディション会場までセリフを反芻しながら歩いて行ったんですが、どうせ演じるなら、役に成り切って園監督に「一撃かましてやろう!」という思いがどんどん高まってきて…もう意を決して臨みました。
黒河内:今、藤丸さんが「2日目に台本が変わった」とおっしゃっていましたが、1日目に行った私も、会場に向かっている電車の中で、「セリフが追加されました」という連絡が来たんです。すごいタイミングで来るんだなと、その時は正直驚きましたね。当然、セリフを完全に覚えることができなかったので、台本を見ながら演じさせていただいたんですが、全く手応えが感じられなくて…。自分としては、「ああ、ダメだったな」と正直諦めていたんですが、それがなぜか通ってしまい、切子役をやらせていただくことになったんです。実は台本をいただいた時、「切子は私に似ている」と共感を抱いていたので、運良く演じることができて本当に幸せでした。
小西:僕は女性のオーディションの相手役をやっていたので、二人の演技を間近で観ていたんですが、凄かったです。藤丸さんは芝居を始めた瞬間、「あ、受かったな」と思いました。本当、最初の1〜2行で。終わったあと、すぐに園監督から「一緒にやろう」と言われていたよね?黒河内さんも、会場に入ってきた瞬間、「あ、切子だ」という感じで、みんなの目を引いていました。
――オーディションとは別に、女性の相手役を任されていたんですか?
小西:実はオーディション当日の朝に相手役をやる方が来られなくなって、「代役をやれる?」って聞かれたので、「やれます!」と。僕もオーディションを受けて助監督の役をいただいたので、そういった意味では映画とリアルがシンクロしたという感じですね。ずっと(女性の相手役を務めることで)裏方として周りを見ていたので、自然と役に繋がっていったのかなと。
山岡:僕も小西さんと同じく特殊な感じだったんですが、実技のオーディションが終わったあと、「ほぼ合格ではあるけれど、配役でちょっと悩んでいる」ということで、何度か呼ばれて演技をしたんですが、最後に園監督に呼ばれた時に、「次から小林監督としてお前が真ん中に座って、園子温の代わりに審査しなさい」と言われたんです。オーディションに来る人たちから、「誰だ?こいつは」みたいな顔をされましたが(笑)、そこからもう、物語の中に入り込んでいた感じでしたね。
――オーディションを受ける時に、それぞれ自分なりの準備だったり、心構えだったり、少なからずあると思いますが、その辺りはいかがですか?
藤丸:オーディションは確かに選抜される場ではあるんですが、本質的には試験とは違うもの。私はあくまでも「演じる場」だと思っています。試験なら勉強してそこでいい点数を取って終わりですが、オーディションの場合は、万が一受かったら、作品が待っている。だから、そこに断絶はなくて一貫しているというか、すでに作品が始まっているという感覚なんですよね。
黒河内:私はまだ模索中というか、「自分のやり方はこうです」とか、「自分の考えはこうです」とか、しっかりと確立していないところが結構あって…。もちろん、オーディション前に監督の作品を観たり、人となりを調べたり、みなさんと同じように予習はしていきますが、どちらかというと今は、あまり深く考えすぎず、気を張らず、フラットな気持ちで臨むというのがスタイルとしてあるんですよね。これから変わっていくかもしれませんが、今はそういう感覚です。
山岡:オーディションによりますが、僕の場合、基本的にはここでお芝居できることを「楽しもう」という気持ちで臨むことですかね。
――あの張り詰めた緊張感の中で楽しむって、結構難しくないですか?
山岡:一時期、オーディションに凄く苦手意識を持っていたんですが、その時、「どうしたら克服できるだろう」と考えて、色々な事を試して分析した結果、僕の場合は、オーディションの1時間前にめちゃめちゃテンションの上がる曲を聴くなどして、早目に緊張のピークを迎えさせる、という方法に辿り着いたんです。つまり、緊張することに疲れ果てて、オーディション本番でリラックスできるというバイオリズムがわかったんですね。もちろん、「絶対一番になる」という思いで来ているので、あとは、舞台を長くやってきた自分には、「体から発せられる熱量というか波動のようなものがある」と信じて、会場にいる全ての人々を魅了する思いで臨んでいます。
小西:僕が何よりも大事にしていることは、「自分の心を動かすこと」。監督がどんな作品を手がけてきたか、今回はどういうものを求めているかをある程度調べた上でオーディションに向かいますが、それよりも、演じる役柄と僕自身がギリギリまで引っ張り合いながら、オーディションで自分の「本当」を出せるかどうかが一番大切だと思っています。
――園監督が見つめる中で、自分の力を100%出せましたか?何か新たに学んだこともあれば。
小西:(藤丸を見ながら)「絶対に取るぞ!」って感じで来てたよね(笑)
藤丸:追加台本が来たときに6人くらい役があったんですが、最初から「安子、やりたい!」と思ってオーディションに乗り込みました(笑)。私は、山岡さんと緊張の扱いがちょっと違っていて、集中のピークをオーディションで演技するところに合わせて持っていくようにしています。その方が良いパフォーマンスにつながるので。
小西:僕は完全に勝負でしたね。『愛のむきだし』とか園監督の作品を観てきた者としては、楽しむという感覚にはなれなかった。あくまでも勝負!
黒河内:私はこのオーディションを通して、いろんなことを学びました。映画に出てくるセリフに「立ち向かえ!」という言葉がありますが、そういう気持ちでこれからやっていきたいと思います。
山岡:僕も学びが多かったですね。園監督と出会って、何より「お前がやっていることをそのまま信じて続けろ!」と肯定されたような気がして嬉しかった。うまい、ヘタじゃない、「とにかく自分を出して描き切れ!」と。さらに、「南米に届くくらい熱いお芝居をやれ!」と言われたので、それが今の目標になっています(笑)
後編では、新人俳優たちが直面する「下積み生活」をテーマに、彼らの夢と現実の葛藤に迫る。
(取材・文:坂田正樹)
園子温監督最新作
『エッシャー通りの赤いポスト』は、12月25日より公開。
(c)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::
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