オーディションに人生を懸けた新人俳優たちの夢と野心
映画『エッシャー通りの赤いポスト』に出演
左から山岡⻯弘、藤丸千、黒河内りく、小⻄貴大
自主映画からキャリアをスタートさせ、『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『地獄でなぜ悪い』など、強烈な個性と才能をスクリーンにぶつけてきた園子温監督。ハリウッド・デビューも果たした鬼才が、生死をさまよう大病を患ったことから映画制作の原点を見つめ直し、ワークショップを通して自らインディーズ魂を取り戻して作り上げたのが、
最新作『エッシャー通りの赤いポスト』(12月25日公開)だ。
物語は、ある映画への出演を熱望する人々が、それぞれの思いを込めて応募用紙を赤いポストに投函し、いざ決戦の場オーディション会場に集うという群像劇。その主軸を演じる俳優は、園監督の「役者のための実践的ワークショップ」によって見出された51名の原石たち。まさに、同ワークショップを受講する役者たちと同じシチュエーションが用意され、同じ環境にある役を、演技でどのように表現するかが求められた。
今回、応募総数697名の中から選ばれた51名のうち、主要キャラクターを射止めた4人の新人俳優にインタビューする機会をいただき、彼らの役者に懸ける熱い思いを前編、後編に分けてお届けする。まずは、オーディションに挑む時の心構えと、役を勝ち取るための戦術を聞いた。
狂気をみなぎらせるワケあり女・安子役 / 藤丸千(ふじまる・せん)27歳
俳優志望だった亡き夫の遺志を継ぐ女・切子役 黒河内りく(くろこうち・りく)22歳
――このプロジェクトはもう2年前になるそうですが、記憶をちょっと掘り返していただいて。まず、「園監督による役者のための実践的ワークショップ」に参加してみようと思ったキッカケを教えてください。
藤丸:一番映画を観ていた時期が10代半ばから後半にかけてなんですが、その頃に園監督の作品と出会って、凄く衝撃を受けたのを今でも覚えています。特に初期の作品が大好きで、今回のワークショップの募集要項に『気球クラブ、その後』(園監督2006年の作品)に通じるようなテーマの作品になるかも」という園監督のインタビューが掲載されていたのを読んで、「これは絶対に参加したい」と思い、応募しました。
黒河内:私は18歳の時から役者のお仕事を始めたんですが、スタートして4ヶ月くらいの時に、「園監督のワークショップ・オーディションがあるよ」とマネージャーさんから教えていただき応募しました。その頃は駆け出しだったので、失礼ながら園監督のことを存じ上げなかったのですが、とにかくオーディションならなんでも挑戦しようと。もう勢いだけで参加したという感じでしたね。
鬼才のカリスマ映画監督・小林正役 山岡⻯弘(やまおか・たつひろ)39歳
小林監督に心酔する助監督のジョー役 小⻄貴大(こにし・たかひろ)28歳
――山岡さんは現在39歳だそうですが、スタートが遅かったのですか?
山岡:実は小劇場で20年くらいお芝居をしているのですが、映画でのキャリアはまだ3、4年程なので、そういう意味では新人俳優というくくりで間違いありません。今回、応募した理由は、自分が求めているお芝居が、必ずしも良しとされないという経験をしてきて、自分としては「貫きたい」という思いがあるのですが、なかなかうまくいかなくて…。どこか違う場所に行って「自分の内なる革命を起こせないものか」と挑戦の場を模索していた時に、園監督のワークショップの募集が目に留まりました。もしかして園監督の芸術性に触れたり、映画制作に関わったりすることができたら、何か新しい発見があるんじゃないかと。
小西:僕は当時、TSUTAYAに行って新作がたくさん出ているのを見るたびに、どれにも出演していない自分に「ぜんぜん結果が出ていない」と、ネガティブな感情を抱いていました。そんな時に、以前からお世話になっていた松枝佳紀さん(今回のワークショップを企画した劇作家・演出家・シナリオライター)からオーディションの話を聞いて、迷わず「受けたいです!」と飛びつきました。昔から園監督の作品が大好きで、どんな方なのか純粋に会ってみたかったし、作品に出られる絶好のチャンスだと思ったので、まずは自分の芝居を観てもらいたいという一心で応募しました。
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::
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