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園子温最新作で躍動する原石たちの下積み事情「早く食えるようになりたい!」

俳優と向き合う時間も大切

藤丸千/映画『エッシャー通りの赤いポスト』場面写真

安子役を演じた藤丸千/映画『エッシャー通りの赤いポスト』場面写真

黒河内りく/映画『エッシャー通りの赤いポスト』場面写真

切子役を務めた黒河内りく/映画『エッシャー通りの赤いポスト』場面写真

――藤丸さん、黒河内さんは、いかがでしょう? 藤丸:私の場合、小劇場の舞台で共演した方が偶然ナレーションの声優事務所に所属されていて、演劇を観に来たマネージャーさんから、「ナレーションやってみませんか?」と誘われたのがご縁で、普段はテレビやラジオのCMナレーションをやっています。ラッキーなことに、それが生活の基盤になっているので、本業のお芝居に集中できている環境にはあると思います。 ――声のお仕事も俳優のスキル磨きに役立っているのでは? 藤丸:そうですね。例えば、「この商品をどのような印象で伝えたいか」という意図をクライアント様から受け取って、それをアウトプットするという作業は、演技と近しいところではあるので、本当に幸運でありがたいことですね。 黒河内:私はここ最近、ハウスクリーニングのバイトをしながら、“流れるような暮らし”をしていています。1年前までは、本作の撮影もあり、それこそ私が演じた切子みたいに自分の考えを貫き通す頑固者で、常に全力疾走だったのですが、ちょっと燃え尽き症候群といいますか、「疲れたなぁ」と思ってしまって。燃えているときって、周りの言葉とか聞こえなくなってしまって、あまり受け入れることができない感覚になるんですよね。 ――今は少し充電期間なんですね? 黒河内:とにかく突っ走ってきたので、自分が「こうしたい!」ということよりも、もう少し受け身で生活してみようかと思って。オーディションもここ1年で2〜3回しか行っていませんし、作品にも出演していない状況です。ただ、そういう生活を送ってきて今思うのは、心が動きやすくなったことなんですね。これまであまり感情表現が得意な方ではなかったんですが、凄く涙もろくなったりとか、心の底から笑えるようになったりとか…「この感覚って絶対お芝居に必要だな」という思いにたどり着いたんです。だから、この感覚を忘れないよう、今は1日1日を噛み締めて生きている、という感じですね。

赤いポストがあったら何を届ける?

映画『エッシャー通りの赤いポスト』場面写真――もしも目の前に神様行きの“赤いポスト”があったら、ハガキにどんな願いやメッセージを書きますか? 山岡:素晴らしい魅力を持っていても、自分のやりたいことが、「お金にならない」とか、「売れ線じゃない」とか、いろんな理由で辞めていった仲間がいっぱいいて、自分もまさに40歳手前にして、「この生活をいつまで続けるの?」「辞めた方がいいのかな?」と自問自答することが多くなってきているのですが、「自分の好きなことを目一杯続けられる世界にしてください」と書きたいですね。 小西:僕は親が生きている間に、俳優として売れた姿を見せたいです。同級生たちが普通に就職し、親孝行している中で、いつも応援してくれている親に何も恩返しできていないのがつらい…。「とにかく結果を残したい」その気持ちを一番伝えたいですね。 黒河内:私も小西さんとほぼ同じようなことなんですが、先ほどお話したように、1年前までかなり頑固にやってきたので、本当にいろんな人を振り回してしまって…。特に家族には申し訳ない気持ちでいっぱいなので、もっと自分の演技を観てもらえる機会を増したいですね。「自分の夢を大切にしながらも、周りのことも大切にできる、そんな人間になりたい」と伝えたいです。 藤丸:みなさんと同じように、親への恩返しは絶対に。でも、それは自力で叶えたい。赤いポストは超常的な存在なので…「これからいくつもの役に出会って、いくつもの作品に出会って、生まれ変わっても、また役者がやれますように」と書きたいですね。  時に悔しい思いを噛み締めながら、それでも夢に向かってチャレンジし続ける新人俳優たち。園監督は、「俳優は“運”によって支えられている」と語っていたが、その“運”を引き寄せる磁力は、どれだけ作品を愛し、演じることを愛し、日々を大切に生きているかで、強度が変わってくるような気がする。今回インタビューさせていただいた4人は、近い将来、どこにたどり着いているのだろうか。期待を込めて、これからも追い続けたい。 取材・文:坂田正樹  園子温監督最新作『エッシャー通りの赤いポスト』は絶賛公開中。
(c)2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::@Backyard_com)
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