ボランティアで旅行者を受け入れるように

譲り受けた祖父母の家
タイミング良く譲り受けた古民家。坂本さんの移住後すぐ、日本中、世界中から人が訪れる家になったという。
「海外滞在時に友達になった人とか、その友達の友達とか、とにかくいろんな人が集まってくるようになって(笑)。カウチサーフィン(※海外旅行などをする人が、他人の家に宿泊させてもらう制度)やウォームシャワー(※自転車旅行者を対象とした宿泊コミュニティ)といった、旅行者と家主のマッチングサイト経由でやってくる人も多くいました。僕も海外放浪時はそういったサイトを使っていたので、宿泊代がそんなにかからなかったんですよ。だから次は自分が『泊っていいよ』って側にまわったら、どんどん人がやってきて、縁が広がっていきました」

当時の家の様子
泊りに来た旅行者の中には、お礼にお金や食材を置いていく人も多かった。貰い物だけで生活が成り立つようになり、「
ちょこっとだけアルバイトで稼いで、出費は月に3万だけ」というライフスタイルが出来上がる。
坂本さんが考えていた、「お金を使わずとも楽しく豊かな生活」が実現したわけだ。そして国内外さまざまな人を受け入れているうちに、彼はある事に気付く。
「僕が中心となって、地域の人と旅行者のコミュニケーションが生まれていって。そうすると、多くの人から喜ばれるようになったんです。地元民からすれば、集落外の人に出会える。旅行者にとっては、地元民と交流できる。これって、普通の旅行ではできないんですよね」
その様子を見て、事業のチャンスを感じた坂本さん。2016年から外国人旅行者を集め、「八女茶ツアー」などの企画を催し始めた。その活動に感銘したのが、地域の重鎮だ。

「外から人を呼んで地域とつなげる活動を続けていくうちに、人々の間で良い化学変化が起こるようになりました。その結果、八女茶ツアーを企画した時に協力してくれた人が、
無料で古民家を譲ってくれたんです。その人は集落の村長的な存在で。『アンタ、この家を貰いなさい』と(笑)」
もともと住んでいた祖母の家より、さらに山間にある古民家。長年空き家だったものの、取り壊すのはもったいないと、活用してくれる若者を探していたそうだ。
その家を譲り受けた坂本さんは、ゲストハウス開業を決める。バックパッカー時代に何百・何千と宿を巡った彼にとって、宿業はいちばん馴染みある仕事だったのだ。
「僕は本当に何もできないポンコツなんですけど……
ゲストハウスに関しては、実際にいろいろ泊まり歩いてきて、自分の中での良い悪いが分かるんですよね。どんな宿が良いかって、人それぞれだとは思いますが……僕にとっての良い宿は、オーナーやスタッフの人柄が温かいところだったんです。それだったら僕にもできる。お客さんに対してナイスでいることなら、自信がありました」

仲間たちと古民家のDIYを進め、2017年に「天空の茶屋敷」と名付けたゲストハウスを開業。クチコミで世界中のバックパッカーが集う、賑やかな宿になった。コロナ禍で外国人旅行者が減ってからは、県内のファミリー層の利用が増えているという。