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「4月ドラマ不調説」のウソ。視聴率の正しい読み解き方

全年代を狙ったドラマは絶滅寸前

 個人視聴率時代になり、民放はスポンサーの望む性別、年代に合ったドラマをつくるようになった。データが世帯視聴率オンリーではつくれないのだ。  個人視聴率時代の現状は映画が観客のターゲットを考えてつくられているのと似ている。『ドライブ・マイ・カー』と『東京リベンジャーズ』は最初から狙う観客が違う。  雑誌が読者層の性別、年代を強く意識した構成になっているのとも近い。読者ニーズは多様化しているから、昭和期のように幅広い年代の男女に向けた雑誌は成立が至難なのだ。  民放も全年代の男女に支持される番組をつくり、それでCMを得るという戦略はもう難しい。また、全年代を狙うと、人口比的にどうしても高齢者の視聴者が多くなってしまう。これでは世帯視聴率は獲れてもCMが得にくい。だから世帯視聴率を狙ったドラマは絶滅寸前と言っていい。

4月ドラマ、個人視聴率に注目してみると

 分かりやすいのが若い層を狙ったヤンキーもののドラマ、フジテレビ『ナンバMG5』(水曜午後10時)。4月から6年ぶりにドラマ枠になった水曜午後10時から放送されている。  5月18日の世帯視聴率は5.2%。高くない。個人全体視聴率は2.9%。しかしメインターゲット内の男女13歳~19歳は2.1%ある。  同時間帯の人気番組『水曜日のダウンタウン』(TBS)の男女13歳~19歳は2.4%だから、ほぼ遜色ない。ちなみに『水曜日――』の世帯視聴率は7.5%、個人全体視聴率は4.1%だった。  どちらの番組も世帯視聴率はそう高くない。だが、世帯視聴率を引き上げてくれる年齢の高い層は最初からターゲットではないのである。  木村拓哉(49)主演のテレビ朝日『未来への10カウント』(木曜午後9時)の場合、世帯視聴率が1ケタ視聴率を記録したことが一部で問題視されたが、これも局側はほぼ気にしない。スポンサーは関心すらない。自分たちの狙う層が見ればいいのだから。  5月19日放送は世帯視聴率が11.1%で個人全体視聴率は6.7%。かつてのキムタクのドラマと比べ、世帯視聴率は確かに低い。半面、女性の50歳以上に限定した個人視聴率は12.3%という極めて高い数字が記録された。  50歳以上の女性100人のうち、12.3人が見ていたことになる。驚くべき数字と言っていい。世帯視聴率も超えた。スポンサーには生活雑貨メーカーや製薬会社が目立つから、狙い通りということになる。
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録画視聴を合算した総合視聴率とは
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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