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「4月ドラマ不調説」のウソ。視聴率の正しい読み解き方

録画視聴を合算した総合視聴率とは

 一方、キムタクのドラマを支えたF1と呼ばれる層(女性20歳~34歳)の個人視聴率は2.0%に過ぎない。隔世の感だ。もっとも、キムタクも間もなく50歳で、2人の娘を持つ父親なのだから、そうなるのも無理はない。  この日の『未来への――』のF1層の個人視聴率を超えたのがフジ『やんごとなき一族』(木曜午後10時)。F1層個人視聴率は3.1%だった。世帯視聴率は6.0%で個人全体視聴率は3.3%である。 『やんごとなき――』のFI層視聴率は同じ時間帯のテレ朝『報道ステーション』のF1層視聴率1.8%より上。一方、『報ステ』は世帯視聴率と個人全体視聴率は高く、それぞれ11.4%、6.5%だった。やはり性別と年代で見る番組は大きく違うのである。  ほかにも2016年から導入された総合視聴率(世帯、個人)がある。これにも世帯と個人がある。7日間以内に録画視聴(タイムシフト視聴)された番組の数字が、通常の視聴率(リアルタイム視聴)と合算される。  やや面倒で画質も悪かった1990年代までのビデオデッキ時代と違い、今や多くの人が日常的に録画視聴を行うはず。総合視聴率は無視できない。ちなみに『未来への10カウント』は録画と相性が良いらしく、総合世帯視聴率は15%前後に達している。今の時代、世帯視聴率はフジの扱いと同じく、せいぜい参考程度。日テレが全く使わないのも不思議ではない。

視聴率とドラマの質に因果関係は?

 また、テレビをリアルタイム視聴する時間は減った。総務省の2021年度版「情報通信白書」によると、2016年には1日のうちリアルタイム視聴する時間が平日に2時間48分あったのに、2020年は2時間43.2分になった。  若者ほど減り幅が大きい。10代は2016年には1時間29分だったが、2020年には1時間13.1分に。20代は同1時間52.8分が同1時間28分になった。だからこそ若者を振り向かせようとするドラマが増えた。スポンサーもそれを歓迎する。また、スポンサーの望む層に合わせたドラマも目立つようになった。そんなターゲット戦略がうまくいったこともあって、在京民放5社の2022年3月期(2021年度)決算はすべてが増収増益。世帯視聴率低下もどこ吹く風なのである。  ただし、50歳以上が若い人と同じ視聴者であることも決して忘れるべきではないはずだ。また、ドラマの視聴率と質が全く関係ないことも。だから、昔も今も低視聴率だけを理由にドラマが叩かれるのはおかしいと言わざるを得ない。放送枠の弱さなどで視聴率には恵まれないが、内容は良いドラマがあるのはご存じの通りである。  1974年に放送され、昭和期のドラマの中では最高傑作と評される山田太一さん(87)作の『岸辺のアルバム』(TBS)すら全15話のうち1度、世帯視聴率で1ケタを記録している。  芸術選奨文部大臣賞など国内のドラマ賞を総なめにした偉大な作品も視聴率だけを指標にしたら凡作ということにされかねない。それでは後世に残り、他国に誇れるようなドラマは生まれない。<文/高堀冬彦> ※視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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