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コロナ禍でくすぶる自粛警察のトラウマ。「近所の公園に行けなくなった」人も

公園の貼り紙に書かれた赤い文字

「コロナを境に近所の公園に行けなくなりました……」  こう語るのは東京都在住の山本利香さん(仮名・36歳)だ。山本さんは、初めての緊急事態宣言が出された2020年4月の出来事を話してくれた。 「緊急事態宣言でずっと家にいなきゃいけなくなったじゃないですか。ウチは夫婦2人ともリモートワークになったんですが、小学3年生と保育園年中の娘2人も学校と保育園がお休みになったから、もう、家の中がギュウギュウで家族全員すごいストレスだったんです」  そんな山本さんの唯一の息抜きは、散歩がてらに行く近所の公園だった。 「近所のママ友とかもたまに会えたりして、外の空気も吸えて、いい息抜きでした。でも、ある日ママ友から『公園ちょっとヤバイかも……』ってLINEが来たんです」  LINEにママ友から一枚の写メが送られてきていた。そこには公園の入り口に赤いマジックで書かれた貼り紙が写されていた。 「貼り紙には『コロナまき散らすな! 子供の面倒は家で見るのが親の務め。うるさい声に迷惑迷惑!』と書かれていました。ちょっとゾッとしましたね。でも、子供たちをずっと家の中で過ごさせるのもよくないし、ママ友たちとは『子供たちには他にも人がいるから少し静かに遊ぼうね』って注意することにしたんです」

公園で遊ぶ子供たちを撮影し、怒鳴る

 だが、そんなやり取りをした数日後、事件は起きた。 「いつものように公園で子供たちを遊ばせていたら、向かいの家から血相変えたおじいさんが怒鳴り込んできたんです。『コロナになったらどうするんだ! 緊急事態宣言なのに、なんで外に出てるんだ! 毎日毎日うるさいし、親なら家で子供の面倒見ろ!』って。私たちもカチンときて、コロナの前から公園では子供たちは遊んでいたし、そもそも公園で子供たちが遊ぶのは当たり前じゃないですか。そんなのおかしいって反論したんですよ」  すると、公園にいた別の子供のお父さん2人も“参戦”。さらには野次馬もやって来てしまい大事になってしまったという。 「おじいさんも一歩も引かないし、こっちは緊急事態宣言でずっと閉じ込められてたストレスもあってヒートアップしちゃって、誰が呼んだか知らないですが警察を呼ばれてしまったんです。でも、警察が来てくれたことでその場は収まったんですが……」  だが、この日を境に公園には不穏な空気が漂うようになってしまった。 「子供たちが遊んでいると、そのおじいさんが窓から顔を出して睨みつけてくるんです。カメラで撮影されたって話も聞きましたし、赤字で書かれた貼り紙もたまに……。腹が立つのが、子供しかいない時を狙って怒鳴ってきたんです。さすがにちょっと気味が悪いし、何かあったら……と思って、その公園には行かないようになりました」  結局、山本さんはトラブルを避けるために少し離れた別の公園に行くようになったのだとか。では、コロナが落ち着き始めている最近はどうなのだろうか。 「最近は窓から顔を出して睨んだり、怒鳴ったりはないみたいです。でも、そういうおじいさんがいるって近所では話題になってしまったので、遊ぶ子は減ったように思います。私はその公園の前を通るだけで嫌な気分になるので、近寄らないようにしています。ウチの子たちにも、公園に行くならできるだけ他の公園に行くように言ってますね」  お互いにそれぞれ言い分はあるだろうが、緊急事態宣言下の巣ごもり生活で唯一の息抜きだった公園遊びを咎められただけでなく、その後、足が向かなくなってしまうようになるとは、なんともやりきれない話である。
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SNSの書き込みに心痛んだ飲食店主
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グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター

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