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作家・爪切男「正解の見つからない人生において、風俗は救いのようなもの」

空白や欠損が許されない時代

爪切男

職場の同僚だった爪切男氏と筆者

――いきなり救われようとするわけではない。だから爪さんの作品は、一見エログロもあるけど、よく読むと、社会的には何か欠落していて弱い登場人物たちが、ありのままで生きる姿が見えてきて、読んでいる側も救われるんだと思います。 爪:多くの人がそうだと思うんですが、人間って欠落しか愛せないんです。例えていうなら、プラモデルを説明書通りに作ることが正解なのかという話です。説明書では腕の部品だけど、それを頭につけた方がかっこいいと思ったのなら、頭につけちゃえばいい。 空白になった腕の部分はもう、そのままでもいいんじゃないかと思いますよ。人生うまいこといかないもんですから。自分に何か空白があっても、その空白こそが自分の魅力だと信じて生きていかなきゃいけないんですよ。 ――空白のままでもいいし、空白になった腕の部分を家にあった爪楊枝で代用したっていい。 爪:夢を叶えて今は幸せに生きている人でも、歳をとれば体もボロボロになってきますし、大切な人たちも死んでいく。どうしても空白が生まれていくんですよね。いずれは、ありものでやっていくしかなくなるのが人生なんです。 ――「ありもので済ませる」という行為を、フランスの文化人類学者レヴィ=ストロースが「ブリコラージュ」という言葉を使って語っていました。 福島の原発の冷却水が、汚染水として海に流れ出しているかもしれないという時に、流出の有無を調べるために、専用の何かではなく冷却水に入浴剤を混ぜて海に色がつくかを見ていたそうなんです。それを見て「日本人はブリコラージュ(ありもので済ませる)のがうまい」と言ってました。 爪:なんとなく、空白や欠損が許されなくて、物事の善悪をはっきりさせないと気が済まないといった最近の風潮が進むと、その日本人の特性も、今後なくなってしまう危険性があるようにも感じられますね。 Instagramはこの世に空白なんて存在しないかのようなハッピーな感じだし、Twitterは相手の空白を攻撃し合う喧嘩ばっかり。かつてSNSも救いのようなものの一つだったと思いますが、もうその時代は終わったのかなとも感じます。

初恋のようなもの

――風俗でかなり変態性の強いプレイをいくつもされていることは、エッセイから伝わってきましたが、友人などに内容を話して、最も引かれたのはどんなプレイですか? 爪:目隠しをされて、何をされるかわからない状況から、女の子が私の胸毛にライターで火をつけたんですけど、可愛い女の子にこの身を燃やされることに異常に興奮しました。 ――命の危険が香ってくると引きますよ(笑)。風俗は一期一会だとのことで、基本的に2度は指名しないそうですが、それでももう一度会いたい嬢はいますか? 爪:正直、全員会いたいですよ。でも、妹のように可愛がっていた街娼の女の子、どうしてもそういう気分になれず、無駄話を楽しんだだけでサヨナラした女の子と、その肌に触れることができなかった抱けなかった子たちには特に会いたいです。 不思議ですね。裸のコミュニケーションを交わした相手よりも、それをしていない子に会いたくなるという。手に入れられなかったものをいつまでも想い続けるというのは、初恋と一緒なのかもしれませんね。
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アップデートしない爪切男
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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きょうも延長ナリ

風俗も人生も、楽しみ方はひとつじゃない

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