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夏ドラ惨敗?視聴率30%超の国民的ドラマが生まれない理由を数字から読み解く

高齢者が好む番組ほど世帯視聴率は高くなる

フジテレビ公式HPより

 世帯視聴率の問題はまだある。高齢者が好む番組ほど数値が高くなるようになった。  テレビは65歳以上の高齢者のほうがよく観る。60代は平日で平均1日約4時間31分観ている(総務省調べ、2020年)。片や10代は同約1時間13分、20代は同約1時間28分、30代は同約2時間15分しか観ない(同)。60代以上と比較すると、はるかに観ない。観る時間がないという事情がある人もいるだろう。  一方、高齢者のいる世帯数は約2558万世帯。実に全世帯総数の約半数を占める(2019年国民生活基礎調査)。1986年には3割弱だったが、急伸した。  高齢者自体も多い。1975年には887万人だったが、2021年は3640万人に激増した(国勢調査と人口推計)。片や1975年に19867万人いた20代(国勢調査)は2021年には1264万人に激減(総務省)。30代も1975年の約1766万人(国勢調査)から1389万人に大きく減った(総務省)。  これにより、数が多い上、テレビをよく観る高齢者が好む番組ほど、世帯視聴率が伸びるようになった。数の少ない若者が好みの番組を見つけ、それを観ようが、世帯視聴率は容易には上がらないのである。

『サザエさん』の支持を視聴率から読み解く

 世界に類を見ない少子高齢化が進行しているため、子供とその若い親が主な視聴者である『サザエさん』(フジテレビ)が昭和期のように20%を超える世帯視聴率を獲るのは極めて難しい。 『サザエさん』の現在の世帯視聴率は8%前後。世帯視聴率のみで昭和期の数値と比較する向きは番組の衰えを指摘し「打ち切り」との説まで流れた。だが、2年半前に本格導入された個人視聴率とコア視聴率を見ると、『サザエさん』にはまだ一定以上の支持があることが分かる。  個人視聴率は「全体のうち何人が観ていたかの割合」である。「100人中、何人が観ていたか」がパーセンテージで表される。観ていた人の性別、年代等も細かく分かる。その個人視聴率を13歳から49歳までで切り取ったのが、コア視聴率(少し違った年齢層を切り取る局もある)。現役世代で購買意欲が高いので、スポンサーが歓迎する。  10月2日放送の『サザエさん』の視聴率は世帯が8.1%、個人が5.6%。一方、同じ日のテレビ朝日『ポツンと一軒屋』は世帯が15.5%で個人が8.9%だった。『サザエさん』の惨敗である。  だが、コア視聴率は『サザエさん』が5.3%で『ポツンと――』は2.4%と大きく逆転する。打ち切られるどころか、コアなら高視聴率番組なのだ。逆に『ポツンと――』は高齢者の視聴者が多いことが分かる。  今の時代、人数の少ない子供向けのアニメ、あるいは若者向けの連ドラが世帯視聴率を獲れないのは、あらかじめ約束されたことなのだ。
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夏ドラマは視聴率惨敗のウソ
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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