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夏ドラ惨敗?視聴率30%超の国民的ドラマが生まれない理由を数字から読み解く

夏ドラマは視聴率惨敗のウソ

 9月24日に終わった日本テレビの連ドラ『初恋の悪魔』は評判高かったが、最終回の世帯視聴率は4.6%。それを貶す声もあった。個人も2.5%。そう高くはない。  一方、コアは2.3%だった。同日のNHK『サンデーウォッチ9』はコアが1.1%(世帯6.8%、個人3.7%)だから、完全に上回っている。やはり同日のTBS『世界ふしぎ発見!』のコアは1.4%(世帯6.1、個人3.3%)なので、こちらも超えた。 『初恋の悪魔』は誰の目にも高齢者向け作品ではない。世帯視聴率が上がるはずがないのだ。世帯視聴率でドラマの真価は量れない。  世帯視聴率と個人視聴率、コア視聴率の差異を表すため、7月期ドラマの視聴率の一部を書く。すべて最終回である。 ■日本テレビ『家庭教師のトラコ』9月21日、世帯4.7%、個人2.6%、コア1.7% ■テレビ朝日『六本木クラス』9月29日、世帯10.7%、個人6.2%、コア3.0% ■TBS『ユニコーンに乗って』9月6日、世帯8.7%、個人4.9%、コア3.3% ■フジテレビ『競争の番人』9月19日、世帯9.5%、個人5.6%、コア2.3% 『ユニコーン――』のコア層からの支持の厚さが目立つ。このドラマも世帯視聴率は低かったが、高齢者向け作品ではない。

視聴するデバイスの変化がもたらす影響も

 視聴率はほかに録画分も含めた総合世帯視聴率、同個人視聴率もある。光ディスクプレーヤー・レコーダーの普及率は2021年3月末時点74.3%(内閣府経済社会総合研究所)に達している。いよいよ世帯視聴率は当てにならない。  TBS『石子と羽男』もやはり好評を博しながら世帯視聴率は低かった。9月16日の最終回は8.0%。個人は4.4%。こちらも「低視聴率」との誹りがあった。だが、コアは2.9%と高かった。さらに録画分も含めた総合世帯視聴率は16.8%で同個人視聴率は9.4%に跳ね上がるのだ。  ほかに現時点では収益も総視聴人数も放送とは比較にならないが、2015年に始まった民放共同の配信サービス「TVer(ティーバー)」も伸びている。配信サービス「NHKプラス」も同じ。登録数は今年4月現在で約250万件。NHKの受信契約件数(約4170万件、2020年度末)の約6%程度に過ぎないが、こちらも普及しつつある。もう世帯視聴率だけで番組は語れない。 「世帯視聴率が高かったら個人視聴率も高い」と捉えている人もいるが、それは誤解。また例を挙げたい。9月14日に放送されたテレビ朝日の2時間特番『池上彰のニュースそうだったのか!!2時間スペシャル』の世帯視聴率は9.7%だった。同じ放送時間帯で日本テレビが3時間に渡って放送した『日テレ系人気番組秋の3時間コラボスペシャル』は同9.8%。ほとんど同じだった。  だが、個人視聴率は『池上彰の――』が5.5%で『日テレ系人気番――組』が6.3%。関東地区における個人視聴率の1%は42.2万人なので、かなり違う。  各局は本音ではテレビ業界以外も世帯視聴率を使って欲しくない。非公式の場ではそう口にする。  だが、表立ってそれを提言することはしない。その一番の理由は言論機関でもあるテレビ界が、表現の自由を妨げることになってしまうからだ。過去の産物になった世帯視聴率だが、しばらくは消えない。 (視聴率はビデオリサーチ、関東地区) 文/高堀冬彦
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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