更新日:2022年12月15日 16:29
エンタメ

秋ドラマ終盤「コア視聴率」BEST10。『silent』のホントの評価は

恋愛ドラマにする気はさらさらない『silent』

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『silent』番組公式HPより

『silent』のトップは納得。当初は青羽紬(川口春奈)とその高校時代の交際相手・佐倉想(目黒蓮)、高卒後の紬と交際していた戸川湊斗(鈴鹿央士)の3人を中心とする恋愛ドラマかと思ったが、予想は良い意味で裏切られた。  想と親しい先天性聴覚障がい者の桃野奈々(夏帆)やその旧友で手話講師の春尾正輝(風間俊介)ら周囲の人々の人間模様もかなり丁寧に描き、社会派色すらある人間ドラマになっている。  第8話で正輝が奈々に言った「聞こえるとか、聞こえないとか、関係ないって思いたいから」もこのドラマのメッセージの1つではないか。聴覚の問題に限らず、このドラマは世にある垣根のすべてを解消すべきだと静かに訴えている気がする。  村瀬健プロデューサーは『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)でタイトルにまで「恋」と入れながら、実際には若者のワーキングプアやブラック労働など社会問題を織り込んだ。『silent』も最初から甘っちょろい恋愛ドラマにする気はなかったのだろう。

2位〜5位にも傑作がズラリ

 2位の『アトムの童』はストーリーが起伏に富み、毎週飽きさせなかった。高齢者が観ないと高くならない世帯視聴率の低さが取りざたされたが、ゲームが題材だったことが影響のだろう。肝心のコア視聴率は一貫して高かった。制作者たちとしては狙い通りだったはずだ。  3位の『クロサギ』は復讐劇とコンゲーム(信用詐欺)ドラマが合体し、肩肘張らずに楽しめるエンタテインメント作品に仕上がった。世界各国、復讐劇は好まれるが、ほんの約150年前まで仇討ちが認められていた日本人には特に合う。  4位の『PICU』は尻上がりで面白くなってきた。テーマが鮮明になってきた。子供の大切さ、親子愛、チーム愛、医療従事者の献身と苦悩。個人視聴率が5・0%と高いのは50代以上にも支持されているから。  5位に『エルピス』、『君の花になる』、『invert 城塚翡翠 倒叙集』が並んだのは興味深い。いずれも賛否がはっきり分かれる作品だ。 「社会派色があり、ドラマ通ぶる奴が誉めるから『エルピス』は観たくない」という人がいるかと思えば、少女マンガ風の『君の花になる』を受け付けない人も。一方で、待ち望んでいる人も多いからコア視聴率が高くなる。  これからのドラマは万人ウケを諦め、いかに高いコア視聴率、個人視聴率を獲るかの勝負になるのではないか。多様化の時代に万人ウケは難しい。  最後になるが、コア視聴率も個人視聴率も「質」とは無関係なのは書くまでもない。映画『ドライブ・マイ・カー』(2021年)は今年の米国アカデミー賞で国際長編映画賞に輝くなど国内外で絶賛されたが、興業的に大成功したとは言えない。コア視聴率ベストテンに入らない作品にも光っているものはある。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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