真面目一徹の本田が気に入った岡本氏は数々のアドバイスを与えた。
「移動のときは車を使わず、電車に乗り、人間観察しなさい。いつでも気がついたことは書き留められるようにメモ帳を持ち歩きなさい」
以来、本田はその教えを守り続けている。役の幅が広いのは人間観察の成果でもあるだろう。岡本氏はずっと本田を起用し続けた。
TBS『3年B組金八先生』(1979年)の大ヒットによって巻き起こった空前の学園ドラマブーム下で作られたフジテレビ『ただいま放課後』(1980年)では主演した。ドンガメ先生こと教師の森雄太役だった。木訥で生徒思いの教師で、50代から60代には、この役の印象が強い。
一方で映画『北京原人 Who are you?』(1997年)では北京原人に扮した。映画は記録的な大コケで終わったが、本田の演技は伝説的だ。原人が口にする言葉は「ウパー!」のみだが、本田はその感情を巧みに表現したからである。
口さがない芸能記者らの間では「よく原人役など引き受けたものだ」という声もあった中、本人はこう話していた。
「ジャック・ニコルソンを見てください。狼男だって何だって、彼はやりますよね(注・1994年『ウルフ』)。役者というのは、いろんな顔を持って、腹の奥底では作品の上がりをほくそ笑みながら演じている部分があるんですよ」(『キネマ旬報』1998年1月15日号)