“職質する警察官”に食ってかかる動画に正義はあるのか? 弁護士の見解
街を歩いている時などに、警察官に声をかけられる職務質問(以下、職質)。急いでいる時などにはイライラしてしまうもの。また、そのあり方に異議を唱えるように、撮影しSNSなどにアップされているものも多い。そうした動画の多くは、何かしらの法的根拠を語りながら撮影と職質を拒否する正当性を語っているが、実際はどこまで法的な根拠があるのか。アーライツ法律事務所の島昭宏弁護士に聞いた。
職質の様子が撮影されている動画を見ると、「職務中の警察官には肖像権がないから撮影しても問題ない」と語られているものがある。まず、その点について島氏の見解はどうだろう。
「前提として、『肖像権』の考え方からお話しします。これは、憲法13条から導かれるとされる、国民が国からみだりに姿形を撮られないという権利なんです。憲法上の人権は、原則として国との関係で国民に保障されるものであり、職務中の警察官は国側の人間ですから、基本的に肖像権の問題は出てきません」
つまり、撮影自体は問題がないようだ。しかし、職質の様子を撮影することに対して「後ろの一般の人が映り込むとプライバシーの侵害になりますから、あんまり撮影しない方がいいですよ」と話す警察官の様子もあった。それに対し撮影者が「風景として映す分には問題ないんです。そんなことも知らないんですか?」と煽る場面も。
「完全にオープンな場所で、歩いている人がたまたま映り込んでしまう分には、基本的にはプライバシーの侵害には当たりません。公共の場所で顔を出して歩いているわけなので、そこにプライバシー権の話は出て来ません。『プライバシー権を放棄している』という言い方をする人もいますね」
しかし、場所によっては気をつけなくてはいけない場合もあると島氏は続ける。
「たとえばコンサート会場や野球の試合をやっているスタジアム内などですと、公共の場所であると同時に、『特定の空間』でもありますね。そうすると、時間や場所が具体的に伝わることになるので、そうなるとプライバシー権の話が出てくることにもなり得ます」
同様の動画ではよく、撮影者が「職質を拒否するのは法律で認められてますよね!?」「強制はできませんよね?」との主張をする場面が見られる。法的に私たちは職質を受ける義務はあるのだろうか。
「厳密にいうと、法律に『職質は拒否していい』とか『職質は強制できない』と書いてあるわけではありません。逆に、警察や行政など、国の機関が強制的にできることは法律で決まっていることだけということです。法律上、職質は強制的にできるとは書いていないわけですから、その帰結として、任意でしかできないということです」(同)
では、警察官が職質中にどんな行為を行うと任意ではなく「強制した」とみなされるのか。島氏の見解は次の通り。
「『有形力の行使』は禁じられています。行く手に立ち塞がったり、腕を掴んで引き留めたりしてはいけないということで、体や力を使って物理的に止めることはできないということです。ただ、どこまでもついてくる警察官はいますよね(笑)」
筆者は、今回の取材に向けていくつかの職質動画を見る中で、行く手に立ち塞がっている警察官を見たが。
「ほぼブラックですね。ただ、職質から多くの犯罪者を見つけたり、犯罪を抑止できているのも事実なので、警察にとってはそこまでしないと、犯罪が抑えられないという理屈はあるでしょう。同じように、カバンの中身を確認しようとして、カバンに触れてしまったり、複数人で囲むようなことをしたら、違法に傾いていきます」
職質を撮影する行為の違法性は?
職質をする根拠となる法律は?
1
2
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
記事一覧へ
記事一覧へ
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ