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“職質する警察官”に食ってかかる動画に正義はあるのか? 弁護士の見解

職質自体がグレーな存在

 ここまで島氏の話を聞くと、「ほぼブラック」「違法に傾いていく」といった、グレーな回答も多い。それについて、島氏は次のように話す。 「職質は、『警察官職務執行法』という法律に定められて行われ、警察官が『なんらかの合理的嫌疑がある』と認められる場合においてのみ可能であると定められています。しかし、その辺を歩いている人をパッと見た瞬間に、合理的な嫌疑なんてなかなか生まれませんよね。つまり、職質自体がそもそもグレーな要素を持つものなんです」  それ自体がグレーである職質。具体的に、その中身の行為についても法律を確認したい。たとえば、職質で止められて免許証を提示するように求められる動画がある。そこで撮影者は「提示を求めるなら、警察官自身も免許証を見せるように」と主張する。この内容では、法的にどちらが有利になるのか。島氏の見解を聞く。 「運転中に止められて免許証を見せるように求められるのは、合理的な理由がありますが、町を歩いていて職質された時に、免許証を見せなくてはいけないという法的理由はありません」  しかし、犯罪抑止のためにも警察官としては身分証を確認したい思いは理解できる。同氏は次のように続ける。 「警察官も、強制的な要求はできませんが、自由な会話はできるので説得できればいいんです。会話の中で警察官の説得に応じれば見せる人もいるでしょう」  つまり、法的に見せる必要はない身分証を、態度や言葉で見せるよう説得できるかが警察官の腕の見せ所といったところだろう。

職質に大事なのは「スマイル」

 任意である職質だが、拒否をしようとすると長引くことも多い。職質動画の中には、押し問答が続く中で撮影者が「あ、もう10分以上止められてる!あんまり時間かけると『職権乱用罪』になりますけど大丈夫ですか?」と発言するものがある。職質にかけていい時間は法的に決められているのだろうか。 「時間の規定はありません。ただ、あまり長時間留めおくとすれば、そのことで強制性を帯びてくるということはあり得ます。その撮影者のいう『公務員職権濫用罪』にあたるとすれば、嫌疑もないのに『あの子可愛いから』ということで職質にかこつけて話しかけたりした場合とかですね」  時間の規定がないとなると、職質を拒否すればするほど私たちの貴重な時間が奪われてしまうことになる。どうすれば、職質を早く済ませられるのだろう。自身も職質を受ける経験が少なくないという島氏は次のように話す。 「まず、最小限の質問には答えます。ただ、急いでいるときは、そのことを伝えつつ『何か嫌疑あるなら説明して』と、こちらから質問します。法律のもとでそれがないと職質はできませんので、これで『いや、では、お気をつけて』と警察官があっさり去っていった経験もあります」  悪いことを何もしていないから拒否をするが、その拒否によって「逃げた」とみなされ、自ら無用に嫌疑を強めてしまうというのが、職質のジレンマだ。何もないのであれば、少しの時間を使って、警察官の仕事への協力として最小限のことを話すのは、私たちにとっても効率的なようだ。 「頭から闇雲に拒否をすると、警察からしても『こいつ怪しいぞ!』となりますよね。だから、やっぱり『スマイル』が大事です(笑)。実際に、職質から大きな犯罪が抑止された例は少なくないので、頭から拒絶することに意味があるとは思いません」  何もない者にとって職質は煩わしいが、島氏の話を参考にしながら、社会の一員として上手く付き合って行くのがよいだろう。そして、ネットにはびこる敷衍された法の解釈ではなく、正確な根拠を持っておくのが重要だ。 <取材・文/Mr.tsubaking>
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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