更新日:2023年05月26日 19:04
ライフ

梅雨、台風、キャンプ、あらゆるシーンで活躍する“奇跡の一足”とは?

つくる手間が2倍かかり、強靭な強さが生まれる

すこし靴の製法の話をします。このモデルは「ダナー式ステッチダウン製法」という独特のつくり方で、アッパー(靴の上の方)は「外釣り」。靴の外側に革を逃がして伸縮性を持たせるのと同時に、長年履き込んでも縫い目から革が切れません。中の「ライニング」(内側の布)は真逆に「内釣り」。ダナーの場合は足を完全に包み込むので、靴ずれの心配は皆無です。通常の靴なら「外・中」は同時に釣り込むので、通常の「外釣り製法」=丈夫で楽だけれど、容易に水が入ってくる。「通常の内釣り製法」=水は浸み込みづらいがソールははがれやすい。この矛盾する製法をわざわざふた手間かけてつくるのが「内釣りステッチダウン製法」=「ダナー式」です。つくる手間は1足で2足分です。国内の革靴でもかつてはよく採用されていましたが、手間のコストから現在は激減しています。 その「外」と「内」の間にもう1枚ソックス状に挿入されているのがゴアテックス・メンブレン(以下、ゴアテックス)。本来は人工血管や口腔外科などの特殊医療用の素材ですが、水を通さず蒸れだけ逃がす性質を応用して、靴だけでなくアウトドア用の衣料にも多用されています。米ゴアテックス社の厳しいテストに合格しないと製品化の許可が降りないという事情もあり、製品は高額になりますがクオリティの高さは折り紙付きです。 そのゴアテックスをはじめて靴に応用したのがダナーなのです。私は15年ほど靴リペアの現場にもいましたが、衝撃的な思い出があります。某有名靴会社のゴアテックスを使った革靴のリペアをした際に、持ち主がズボラの極みで持ちこまれた時には底だけではなくアッパーの革もざっくり裂けており、完全に修理不能な状態でした。その裂けた革の隙間から白い布が見えました。ニッパーで引っぱり出すと無傷のゴアテックス。あまり注目されていませんが、ゴアテックスはそれ自体が非常に強靭な布で、靴本体より長持ちすることさえあります。 ダナーに限らずゴアテックス製品は梅雨時によく売れます。靴の場合は非常に蒸れづらく水は一切入ってきません。筆者は「ライト」と同じミッドカットを愛用していますが、台風の中でも、北海道の雪の中でも足首までなら水・雪の侵入はゼロです。蒸れづらさからなのか、中で結露になりづらいので真冬の北海道でも寒さをほぼ感じませんでした。
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革とソールもすごい。メンテナンスフリーで長持ちの秘密
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こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『シューフィッターこまつ 足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ

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