更新日:2023年05月07日 10:00
エンタメ

刑事ドラマの話題作対決。『教場』vs『ラストマン』“ホントの見どころ”を徹底考察

推理する楽しさを提供

『教場』(長岡弘樹・著 小学館)

『教場-0-』は「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、「このミステリーがすごい!」で第2位になった長岡弘樹氏による『教場0』と『教場X』に基づいているだけあり、解かなくてはならない謎が新鮮であり、動機面もしっかりしている。  第4話はこうだった。出産を控えた19歳の女子大生(生見愛瑠)が子供の父親である工芸家(淵上泰史)を衝動的に撲殺した。工芸家からイタリア人の女性と結婚するので、生まれてくる子供を渡すよう言われたからだ。衝動殺人の動機としては十分だろう。  風間に指導されている新人刑事・隼田聖子(新垣結衣)と視聴者が解かなくてはならなかった謎は大きなものが3つ。 ①どうして女子大生はアパートの自室で出産したのか ②赤ん坊の足には傷かアザがあるようだが、それを女子大生が隼田に確認させないのはなぜか ③工芸家の作品の1つである大皿にホコリが付着していなかったのはなぜか――。  大半の視聴者が言い当てられるのは「本当は赤ん坊を犯行時に生んだ」「そのために赤ん坊が足にケガをした」までだっただろうが、それを推理する材料を作品側は比較的フェアに提供した。  旧来型の刑事・警察ドラマの場合、物語の後半で新証拠や新証言が急浮上し、あれよあれよという間に事件が解決するのは知られている通り。推理の余地などあったものではない。  作品は長岡氏の原作をほぼ忠実に映像化しているが、第4話は脚本家の君塚良一氏が書き加えた部分があった。女子大生が逮捕される際、風間が口にした言葉である。

木村拓哉の演技は「いつも同じ」?

 風間は「今はシングルマザーを保護する制度があります」などと女子大生に助言。さらに工芸家をなじる一方、「だからと言って命を奪って良いことはありません」と説いた。君塚氏なりのヒューマニズムであり、ドラマなので一定の温かみを加えたのだろう。  木村の演技について「今回もいつもと同じ」という声があるようだが、それは言い過ぎではないか。大半の作品で見られる、甘ったるくて、不自然なまでに若々しい木村とは違う。  第1話も振り返りたい。タクシー内で愛人のデパート店員に殺害されたホストクラブ経営者は、殺されることを予感し、車の走行ルートで愛人の名前を表していた。原作の通りだ。  視聴者からは「あり得ない」という声も上がったようだが、ミステリーのルールには適っている。行うことが不可能だったら「あり得ない」と切り捨てられるべきだが、走行ルートで名前を記すことは出来るからである。被害者は地図アプリの入ったタブレット端末も持っていたのだから。  旧来型の刑事・警察ドラマの場合、被害者が絶命前に血などで犯人の名前を書き残すことが多い。「名前だと思ったら地名だった」といった応用パターンも含め、何度使われただろう。もう食傷だ。新しいものは評価すべきなのではないか。  デパート店員は玉の輿に乗ろうとしており、殺害動機はホストクラブ経営者との関係の清算。ベッドシーンの画像も撮られており、話し合いでは解決しそうになかった。こちらも動機は十分だった。  重い作風はミステリーの本場であるイギリスの刑事・警察作品に通じる。公共放送のBBCや民放大手のITVの作品はほとんどが暗く重い。ミステリー色を重視している上、殺人という犯罪自体に明るさや救いはないと考えているからだろう。
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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