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『テレビ千鳥』大悟の“下品ないじり”に物議。幼稚すぎる発言が一度は許されてしまった「日本のお笑いの問題点」

お笑いが本来果たすべき役割とは?

 イギリスのコメディアン、ジャック・カレンは<人生のほとんどはジョークだ>と語り、その理由をこう指摘しています。 <コメディは社会におけるあらゆるイベントが不条理だと人々に思い知らせるためのものだ。兵士とは合法的な殺人者で、儲けは盗みと同じ。結婚は集団的“ごっこ”だ。人は一生をかけて自分がその中で死ぬためだけに家を買う。でもブリトニー・スピアーズかヒトラーでもないかぎり、100年後には誰も君のことなど覚えてはいない。>(『Why Being “The Funny Friend” Is Not All It’s Cracked Up To Be』 ファッションサイト『MR PORTER』 2022年9月15日 筆者訳)  世の中の大半がよしとしている価値観に揺さぶりをかける。時には汚い表現を用いてでも人々の意識にのぼらせること。これが笑いの役割だと言っているのですね。よく日本のお笑いは政治家や著名人を批判しないからダメだといった論説を目にしますが、そんなに単純なものではありません。  むしろ、ふつうの日常にこびりついた偽善をくつがえすことこそが権力への挑戦であり、笑いの根幹を成すのです。

お笑いが“考えるきっかけ”になる一例

 そして同様のテーマを逆の視点から見つめる笑いもあります。イギリスのコメディアン、リッキー・ジャーヴェイスが制作、主演したドラマ『After Life』です。  ジャーヴェイス演じる、妻をなくし人生に絶望した中年男トニーは、職場での同僚との会話でこうぶちまけます。 <人類そのものが災難だろう。われわれは不快でナルシストで自己中なパラサイトだ。人間なんていないほうが世界はうまく回る。みんな自殺するのが道徳的に正しい義務だ。俺も喜んで屋上行って飛び降りてやろうかと思ってるんだ。>(Season 1 Episode 1より。筆者訳)  これは不健全な考え方です。けれども、このセリフを目にしたときに思わず笑ってしまう。それは辛辣な言葉以上に、普段見てみぬふりをしてきた感情が暴かれたからなのです。誰にでも人類や世界を否定したくなる時はあるし、そんな考えにとらわれたときのある種の爽快感を示している。  しかし、それと同時に“人類が災難”で、みんな“自己中”だと断じる自分自身が誰よりも“不快なナルシスト”なのだという真理をついてくる。お手軽なニヒリズムや悲観主義をトニーを通じてあざ笑っているわけですね。  こうしてジャーヴェイスの脚本は私たちの価値観に二重、三重の揺さぶりをかけるのです。
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日本のお笑いは構造的に限界?
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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