更新日:2023年06月16日 16:43
スポーツ

イニエスタの獲得は失敗だったのか。“残念な結末”に潜むヴィッセル神戸の過ち

一切浸透していなかった「バルサ化」

アンドレス・イニエスタ

盟友シャビ・エルナンデス監督との抱擁は、世界中のサポーターの胸を熱くさせた

 それは指差しの仕草だ。攻撃時にはパスコースを指示するため、守備時には相手を追い込む方向を指示するため、常に味方へシグナルを送るようになっていた。主に、味方に対するポジショニングの指示になるが、その指示を受けてから動き出しているようでは遅く、相手が先に対応してしまうことになる。  来日当初は互いの意図をすり合わせるためにも必要な指示だったと考えられるが、5年も経過しようというのにイニエスタの指を差す仕草の数は減っていない。それはイニエスタの入団に伴い目指した「バルサ化」が一切浸透していなかったことの証明となって表れている。  浸透しなかった理由には、選手個々のレベルや監督の指導力、フロントのサポートなど多岐に渡ると考えられる。とはいえ、戦術は時の経過とともに変化していくものだから、失敗は失敗と受け止めてしっかりと反省し、次へと進んでほしい。

ヴィッセル神戸は失敗を糧にできるか

 ただ、それよりも残念なことは、「バルサ化」を目指した組織づくりはできなかったことである。バルセロナの育成機関は世界でも屈指に優れており、イニエスタはその最高傑作とまで称されている。  才能のある子どもたちを育成して、数多くトップチーム、プロの世界へ送り込むという育成機関づくりを目指したはずである。しかし、この5年間でヴィッセル神戸がやってきたことは行き当たりばったりで高年俸の実績のある選手を獲得し、若手のチャンスを激減させていっている。組織づくりにおいても、「バルサ化」とは真逆のことを行なってきていた。  結局、ヴィッセル神戸の「バルサ化」とは何だったのだろうか……。目標だけを掲げて、手段はまったく検討もつかなかったという状態で終焉することになった。少なからずとも、この失敗は糧にできるように今一度考え直すべきである。  前述のように、イニエスタは日本に多くの影響を与え遺産を残してくれている。しかし、獲得したヴィッセル神戸には何も残らないのでは、イニエスタ本人も不本意極まりないだろう。 <文/川原宏樹 撮影/松岡健三郎>
スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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