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TOTO『ウォシュレット』誕生当時の苦労。「おしりは拭くもの」という“常識”への戦い

「ウォシュレット」誕生前夜

ウォッシュエアシート国産

ウォッシュエアシート国産(1969年)

 さらに、世の中も流れとして新築ではなくリフォームへと動き出した時代背景も影響していると同氏は話す。 「便座を取り替えるだけで、おしりを洗い温風で乾かす気持ち良さが体感できる製品として、『ウォシュレット』の自社開発が動き出したのが1978年の秋でした。発売日は1980年6月と決まり、開発期間はわずか1年半しかありません。どんな商品を目指すかは、それまで『ウォッシュエアシート』に寄せられたクレームから設定しました」  クレームで最も多かったのが、お湯ではなく水が出る、便座が冷たい、温風が出ないなどの故障トラブル。次に多いのが、吐水量が少ない、長く洗っていると水になる、肛門にお湯がうまく当たらない、長く座っていると便座が熱くなるといった、商品の使用に関するクレームだったという。

300人超の社員がおしりを出して実験

「このような問題点を解決するため、メンバー自身が実験台となって実際にお尻を何度も洗いました。また、お湯が出る位置と角度は基礎データがなかったため、社内に協力を募って300人以上の社員のお尻で実験をしてデータを取っていったんです」  TOTO社員がまさに”一肌脱いだ”ことで、問題点は次々と改善の方向に向かった。中でも、今では当たり前になっているものが、ここで誕生している。 「洗浄・乾燥・便座それぞれを適温にするために『ICによるマイコン制御』を導入しました。今ではどのメーカーでも常識ですが、当時は精密機器を水場であるトイレ空間で使うことなど、尿や水がかかれば漏電の危険もあり、前代未聞だったんです」  狭いトイレ空間で邪魔にならないコンパクトな回路と、水場で電気を使用しても担保される安全性の追求と技術開発には大きな苦労があったと浅妻氏。 「仲の悪い水と電気。これを融合させるため、風雨にさらされても機能している信号機からヒントを得て特殊樹脂でハイブリッドICをコーティングするなど、多くの工夫と苦労が実を結び、1980年6月に『ウォシュレット』が完成しました」
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あのキャッチコピーが起爆剤に
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Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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