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人気アーティストもブチ切れ…「THE FIRST TAKE」“つまずき”を排除した音楽に感じる違和感

滅菌された“安心安全な歌と演奏”にはないもの

 こうして滅菌された安心安全な歌と演奏が、全く他者のいない隔離された空間で鳴らされることで、ライブ感からは最も縁遠い管理されたパッケージになってしまうのは皮肉です。  他者の負荷がかかっていない音楽は社会性を失います。社会性とは、音を外したり演奏をミスしたりしたときにも、その人がどういう振る舞いをして場を収めるかという人間的な地力としてあらわれるものです。  どれだけ音楽が好きだからといっても私達は音楽だけを聴いているのではなく、ちょっとした仕草や表情から付随する奥行きを感じ取るのですね。映画やドラマで俳優を見ているときに、演技の技術ではなく結局はその人自身を見ているのと同じような感じですね。

つまずきの中にきらめきがある

 海外のライブ動画を観ていると、小さなミスを放っておくケースがけっこうあります。たとえば地下鉄の車内で自身最大のヒット曲「Stay」を弾き語りしたリサ・ローブ。ギターのコードを間違えたときにアイコンタクトをした乗客の黒人男性が、“まあ気にすんなよ”といった表情を返す。おおらかなやり取りで「Stay」がさらにいい感じになっていました。  U2のボノとジ・エッジがかつてのアメリカの人気番組『Late Show with David Letterman』に出演した際に急遽アコースティックで披露した「Stuck In A Moment You Can’t Get Out Of」も良かった。最後のサビへ行く手前、一瞬ジ・エッジがコードを弾き損ねる場面はまさにライブならでは。  それでも音楽はなにも傷ついていないのです。むしろ、そのつまずきの中にきらめきがある。ポール・シェイファーのハモンドオルガンが加わって息を吹き返す様は、まさに歌詞のメッセージを体現しているようでもありました。
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問題の本質は“ピッチ補正”ではない
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