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炎上した茂木健一郎氏の発言から考える「ジャニーズの音楽」。いま直視すべき“ふたつの真実”とは

高い技術だけがアーティストの魅力ではない

 筆者は疑問を抱いています。なぜなら、高い技術の人間が必ず評価され人々を魅了できるかといえば、そこまで音楽は単純なものではないからです。  茂木氏は「世界に一つだけの花」や「夜空ノムコウ」は作者の槇原敬之やスガシカオが歌ったほうがいいというのが<批評的言説としてはごく当たり前>だと発言しました。本当にそうなのでしょうか?  競争をやめて最高の自分を目指そうというメッセージの「世界に一つだけの花」。自己実現に苦悩する若者のけだるさとほのかな希望を夜明けに重ねた「夜空ノムコウ」。いずれもナイーブな楽曲です。対照的な曲調ながら、若さと幼さが入り混じった不安定なエネルギーがある。

歌の不安定さゆえに伝わるメッセージ

 では、こういう曲を正確なピッチ、安定したリズム、巧妙なハーモニーで聞かせたとして、楽曲の価値は高まるのでしょうか? 「世界に一つだけの花」、「夜空ノムコウ」は、そうした要素を求めていない楽曲なのですね。むしろ洗練されたテクニックによって大切なメッセージが伝わらなくなってしまう。  “ジャニーズの歌は下手だ”という批判は、むしろ最高の褒め言葉になり得るのです。  SMAP以外でも、たとえば「もう君以外愛せない」(Kinki Kids)。声が裏返りそうな高音のユニゾンで永遠の愛を誓う。これを余裕たっぷりにハモったとしても切迫感を表現できるでしょうか。 「AMBITIOUS JAPAN!」(TOKIO)。作曲・筒美京平、作詞・なかにし礼による玄人の仕事と奔放なアマチュアリズムが生む緊張感は、専門的なトレーニングからは生まれないでしょう。  このように、どこか抜けたところ、ほつれがあるのがジャニーズの音楽の特徴なのだと思います。不完全さが崩壊寸前のところにとどまっている。ギリギリのバランスを見極めて、改善や修正をしない判断力。  ジャニーズがただ下手だと切って捨てられない理由は、音楽の不可思議さと深く関わっているのではないかと感じます。
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ジャニー喜多川氏の功罪
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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