だからといって、音楽で社会批判をするなという意味ではありません。ただし、そのためには一工夫が必要です。
「Jolly Coppers on Parade」(ランディ・ニューマン アメリカの映画音楽家、シンガーソングライター。代表曲「セイル・アウェイ」「きみは友だち」など)は、子供の目から警察への憧れを描いた曲です。(以下筆者訳)
<Oh they look so nice Looks like angels have come down from paradise>(ああカッケー 天国からやってきた天使みたい)
<Oh, mama that’s the life for me! When I’m grown that’s what I want to be>(ママ、ボクあれがいい おとなになったらあんな風になりたい)
見ての通りどこにも警察を批判する言葉は出てきません。警察を賛美していると思う人もいるでしょう。開放感あふれるメロディと和音も、いわゆる美しい社会をたたえているかのような響きです。
しかし、タイトルの「Jolly」(陽気な)という形容詞に、警察を軽蔑する言い方の「Coppers」を組み合わせている点は見逃せません。そして無邪気な子供が警官隊に憧れる構図そのものが、暴力装置の横暴に対する批判になっている。これを踏まえるとポップなサウンドが強烈な皮肉であることがわかるでしょう。
その中を“あてにならない語り手”=“警察に憧れる子供”が自由に動き、語ることで曲にストーリーが生まれるのですね。社会批判と作品鑑賞を両立させる例のひとつです。