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「2023年秋ドラマ」BEST3を中間報告。現時点で見えた“テーマの一貫性”を分析

②NHK『大奥 Season2』

(NHK総合 毎週火曜よる10時~)
大奥2

(C)NHK

 3代将軍・徳川家光(堀田真由)から8代将軍・吉宗(冨永愛)までの時代が描かれた『大奥』(今年1~3月)の続編。若い男子のみかかる伝染病・赤面疱瘡の流行により、男子の数が激減し、男女の役割が逆転した江戸時代が舞台となっている。Season2は10代将軍・家治(高田夏帆)から15代将軍・徳川慶喜(大東駿介)までが映し出されている。  テーマの1つはジェンダー問題。これをドラマで扱おうとすると、理屈っぽくなったり、硬くなったりしがちだが、男女逆転下という特性を生かし、しなやかに表している。  一例は通算18回(続編8回)。海外勢の脅威にさらされていた13代将軍・家定(愛希れいか)は、御台所の胤篤(福士蒼汰)にこう語り掛ける。胤篤は史実では薩摩藩主・島津斉彬の養女だった篤姫だ。 「西洋の国々は確かに強い。しかし、どこも主たるは男。女の力は認めぬという。実は、ワシはここが勝ち目じゃと思うておるのじゃ。おなごにも力のあるものは大勢おる。身分、さらには男女の別もなく、人を取り立てると思えば、倍の中から人を取り立てられる」(家定)  短いセリフの中にジェンダー問題の重要な一部分が集約されていた。  仲間由紀恵(44)が演じていた幕府の最高権力者・一橋治済の怪物ぶりが話題をさらったが、これは善玉を輝かせるため。よく計算されている。ベテランの仲間は自分に求められていることが分かっていたはずだ。  治済は邪魔者や気に入らない人間を次々と殺した。罪悪感は微塵もなかった。吉宗の孫同士である松平定信(安達祐実)から「人の皮をかぶった化け物」と言われたくらい。

視聴者を納得させるリアリズム

 その分、虐げられた側のヒロイン、ヒーローがより輝いた。たとえば大奥内の蘭方医・青沼。赤面疱瘡の予防接種「人痘」を開発しながら、不測の死亡事故の責任を取らされ、打ち首になった。  それでも青沼は泣き言を言わなかった。逆にうっすらと笑みを浮かべ、弟子たちにこう言い残し、刑場へ向かった。 「いつか必ず世が再び人痘を求めるときが来ます。そのときは皆さん、よろしくお願いします!」(青沼)  世の役に立てて満足だったのだ。また、差別に悩まされることなく研究に打ち込めた大奥の日々に幸せだったのだろう。  青沼はオランダ人の父と遊女の母の混血だったため、故郷の長崎では不当な差別を受けた。大奥でも当初は周囲から疎まれたが、真摯に研究に打ち込むうち、打ち解けた。差別についても考えさせた。  全体的には時代劇の有利性が最大限に生かされている。『水戸黄門』などを振り返ると分かるが、時代劇は際立って汚い人間や美しい人間に真実味を持たせやすい。欲の塊のような治済や犠牲心に満ちた青沼を現代劇に登場させたら、ウソっぽくなる。  大奥総取締役の瀧山(古川雄大)が家定の前で決して立ち上がらないなど所作が重んじられているところもいい。江戸時代に格下の者が格上の人間の前で立つことはあり得ない。所作をないがしろにしないから、男女逆転であろうが、リアリティが生まれている。
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『うちの弁護士は手がかかる』
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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