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「2023年秋ドラマ」BEST3を中間報告。現時点で見えた“テーマの一貫性”を分析

③平手友梨奈の好演が光る『うちの弁護士は手がかかる』

(毎週金曜夜9時〜)
うちの弁護士は手がかかる

フジテレビ番組公式HPより

 回を追うごとに面白くなってきた。ドラマは小難しい作品や実験的作品ほど評価される傾向が昔から強く、TBS『半沢直樹』(2013年、2020年)ですら大きな賞には恵まれなかった。しかし、こういう軽い娯楽先もより認められるべきだ。  弁護士事務所を舞台にしたコミカルなリーガルドラマであるものの、明確なテーマもある。それは「人は誰かによって支えられている」ということと「プライドを持って仕事に臨んでいる人の代わりはいない」である。  主人公・蔵前勉(ムロツヨシ)は女優・笠原梨乃(吉瀬美智子)のマネージャーを30年に渡って務め、大物と呼ばれるまでに成長させたが、突然理由もなくクビになる。その際、梨乃はこう言った。 「あなたの仕事は誰がやっても変わらない」  痛烈な言葉だ。深く傷ついた蔵前は駅のホームから電車に飛び込む素振りを見せたが、新人弁護士・天野杏(平手友梨奈)が落とした書類袋を拾ったので、「香澄法律事務所」に届ける。そこで所長の香澄今日子(戸田恵子)に見込まれ、天野のパラリーガルを務めることになる。  当初の天野はとんでもなかった。書類袋を拾ってもらった蔵前に礼の1つも言わず、遺失物拾得者の権利を放棄する念書を不躾に書かせようとした。頭はいいが、社会性はゼロ。おまけにビックリするほど自分勝手だった。  そんな天野だから、蔵前もパラリーガルになることを躊躇したが、心を動かされたのは香澄の言葉。「彼女、ダイヤモンドの原石かもよ。磨いてみない」。弁護士のマネージメントを託されたのである。

平手友梨奈の好演が光る

 この時点ではどう原石なのかピンと来なかったが、徐々に分かってきた。天野は正義感が図抜けている。非正規ドラマスタッフへのパワハラを止めさせようとテレビ局に乗り込むわ、練習中のボクシング部員のケガの責任を認めない大学側に食らいつくわ。  そんな天野を蔵前は全力でサポート。天野は温かく穏やかな蔵前と過ごすことにより、自分も性格が柔らかくなってきた。  ただし、2人は一度だけ大ゲンカ。天野が蔵前に対し「あなたの代わりはいくらでもいますから」と言ったからである。心にもないことだったが、これでは梨乃と一緒である。  この件は天野が謝罪し、一件落着した。天野は梨乃とは違う。梨乃が戻って来て欲しいと頼もうが、蔵前は天野から離れないだろう。  ベテランで芸達者のムロがうまいのは当然として、平手がいい。天野役を好演している。天才的で気が強いが、内面は繊細という難役である。女優に転じてからのベストプレイではないか。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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