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桑田佳祐&松任谷由実とビートルズの新曲に表れた「圧倒的な差」。過去の素材を使用しているのは同じだが…

曲の良し悪し以上に賞賛に値する「姿勢」

ビートルズ

ビートルズ『Abbey Road』

 しかし、それはあくまでも”ジョン・レノンのデモテープ”という条件下でこそ可能だったのです。いわば独り言のような内省と親密さでしか醸し出せない“ジョン濃度100%”の味わい。それがビートルズというバンド、そして新曲というパッケージングを考えた際に、どうしても“ささくれ”として目立ってしまう。  だから、削らざるを得なかったのですね。ジョンの息遣いが濃厚に残っているフレージングだとしても、トータルのバランスを考えれば使えない。曲の良し悪し以上に、徹底的に吟味する姿勢こそが賞賛に値するのです。  ビートルズは最後の最後までクリエイティブに関わる重大な決断をくだすバンドとしての矜持を保ったと言えるでしょう。

37年前とほぼ変わらない「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」

 それを踏まえて、桑田佳祐と松任谷由実の「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」は、どう聞こえるでしょうか。  37年前とほぼ変わらないサウンドプロダクションにアレンジ。オリジナルで桑田が「お正月」を挿入した部分に、今回はお互いの持ち歌「恋人がサンタクロース」と「波乗りジョニー」、「ルージュの伝言」を重ねるのみ。  歳月がもたらすはずの時代感覚の違いもなければ、いまの彼らなりの音楽的な技工や熟達が示されるわけでもない。ただ、37年前の曲に漫然と足し算をしているだけなのですね。  もちろん、桑田、ユーミン両者のファンには嬉しいサプライズだったでしょう。しかしながら、2023年の「Kissin’ Christmas (クリスマスだからじゃない)」に漂っているのは、「Now And Then」のようなシビアなプロフェッショナリズムではなく、特に話題もない緩慢な同窓会のようなムードです。  企画の意図がどうあれ、桑田佳祐、松任谷由実という巨大なブランドにふさわしいコラボレーションだったかは疑問に思う出来でした。
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問われているのは、音楽の質ではなく…
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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