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中学生で「死を覚悟した」ことも…気鋭のピアニストが「ネットの誹謗中傷」に全く動じない理由

パリの治安の悪さに驚いた中学生のころ

 恵まれた環境でピアノだけを弾いて育った純粋培養かと思えば、留学では辛酸を舐め尽くした。 「師匠の『なるべく早く留学を』の一言で、私は中学生になるころにはパリにいました。そこで学ぶことは多かったのですが、治安の悪さには驚きました。たとえばパリの町並みは古い建物を大切にすることで知られていますが、エレベーターがない建物も多いのです。すると、郵便の配達員が登るのが面倒なので、在宅しているのに平気で1階に置いて不在扱いにしてしまうことがしばしばあります。また、スーパーなどでも日本の接客とは違って、ニコリともしませんし、袋に詰めるときも乱暴です。まぁこんなのはよくある話ですが、持っていたリュックを引き剥がされたりしたこともあります。強盗に遭ったのは2度ですね、あれは死を覚悟しました。自分に向けられたものではありませんが、町中で銃声を聞いたこともありますよ。私自身が、根底で『何があっても大丈夫』と思えるのは、ピアノに誰より真剣に向き合った自負があることと、留学のときに強かに生きることを学んだせいかもしれません

クラシックはもっと気軽に楽しんで良い

 聴き慣れない人にとっては敷居が高く感じるクラシック音楽だが、栗原氏はこんなふうに捉えている。 「確かにクラシック音楽を気軽に聴こうとは思えない何かがありますよね。でも、本当はかしこまる必要は全然ないんです。演者は聴衆を楽しませるように最大限の努力をしなければなりませんが、聴衆の側が緊張する必要はまったくありません。知識も、あった方が楽しめることは否定しませんが、必須ではありません。ただ一部のクラオタ(クラシックオタク)が敷居を高くしてしまっているのは事実なんですよね。どのタイミングで拍手をするかとかも、『フラ拍(フライング拍手)は駄目』とか(笑)。 似たようなものに『フライングブラボー』というのもあって、我先に『ブラボー』って言っちゃうとか(笑)。弱音が鳴っているうちは余韻を楽しむものですが、思わず言っちゃうみたいな。ただ、演者はあまり気にしていません。演奏を妨害するものでなければ、感動を表現してくれるのは嬉しいものです
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人の心を揺さぶる音を奏でるためには…
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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【告知】
栗原麻樹ピアノリサイタル
〜千夜一夜物語〜
2024年5月27日(月)
19時開演 21時終演予定
東京文化会館(上野駅より徒歩1分)
全席自由¥5000 18歳以下¥2500

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