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中学生で「死を覚悟した」ことも…気鋭のピアニストが「ネットの誹謗中傷」に全く動じない理由

人の心を揺さぶる音を奏でるためには…

 聴衆には肩肘を張らずに楽しんでほしいと願う一方で、演者に対しての栗原氏の考え方はストイックだ。 「私はピアノの指導も行っていますが、何かひとつでも『やりきった』といえるくらい追い込むと、自信になるというのは、私自身が胸を張って子どもたちに伝えられます。もしもピアニストでありたいならば、ある程度のレベルに達するまでは爪が取れるくらい練習して追い込むのは当然だと思います。練習は量より質というような言説もありますが、私は、量をやったなかから質が生まれてくるものだと考えています。それから、作曲家への敬意を持ち続けられない人はピアニストでいられないとも思います。クラシック音楽は、どの曲も100年以上前に亡くなった偉大な作曲家たちの曲を演奏します。楽譜は作曲家たちからの手紙であり、それを解釈するのが“読譜力”です。ただ自分の弾きたいように弾くのではなく、その曲が生まれた背景を知ることが欠かせません。この時代に何があったのか? どういう気持で作った曲なのか? という観点を無視して、音符をなぞるだけでは、人の心を揺さぶる音は奏でられないでしょうね

音楽は「演者が楽しむものではない」

 同じ譜面をみて奏でる。たったそれだけの行為に、途方もない熱意と尊敬を捧げて完成させる一曲。キャリアを重ねた現在でも、栗原氏はリサイタルのときは常に緊張してしまうのだと話す。 「舞台に上がる前の気分は、まさにこの世の終わりですよ(笑)。何しろ、演奏中は一音たりとも無駄にできる音はないのですから。音楽は楽しむもの、と言いますが、少なくとも演者が楽しむものではないと私は思っています。音楽は時間の芸術です。それはちょうど料理と同じように、同じ素材でプロが作っても微妙に違う味になるように、演奏もそのときによって微かに異なるのです。しかも、それらは絵画などと違って、横において比べることができません。その空間で奏でた音が、すべてなんです」
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「音楽にすべてを注いで」得られたことは…
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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【告知】
栗原麻樹ピアノリサイタル
〜千夜一夜物語〜
2024年5月27日(月)
19時開演 21時終演予定
東京文化会館(上野駅より徒歩1分)
全席自由¥5000 18歳以下¥2500

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