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「このままでは邦楽は“浮世絵”になってしまう」音楽史をひも解いて見えたJ-POPのユニークさ<みのミュージック>

最先端の流行を翻訳するK-POPと、独自進化のJ-POP

―――今の話でいうと、最近のアメリカのヒット曲の中には、ハリー・スタイルズやアリアナ・グランデのようにちょっとJ-POPっぽいメロディやコードが出てきますよね。リズムの反復の気持ちよさよりも、一節のうねりの感動を伝える曲が増えてきました。西洋の側から見ると、逆輸入といった感じなのかもしれません。 みの:うん、なんかそういう展開は、たとえばK-POPみたいに最先端の流行を翻訳して国内でうまくそれに寄せて作って出していく方法だと、成果として表れないものじゃないですか。だから日本国内で独自進化を遂げられたのは非常にいいことですね。 ―――西洋化の歪みが消化されていき、等身大の創作としてのJ-POPが欧米のアーティストに影響を与えている。みのさんのお話をうかがって、大衆音楽における近代化の到達点が宇多田ヒカルなのではないかと思いました。かなりアクロバティックに日本語の歌詞をはめ込むソングライティングをどうご覧になっていますか? みの:徐々に洋楽的な手法が浸透していく中で、子音とかを細かく切って反復で気持ちよくさせるやり方をきっちり最初に提示したうちの一人が宇多田でしょう。ポップスにおける言語感覚のリズムの部分の回答は、彼女の出現で決着したと思いますね。

“桑田佳祐モデル”というコンセプト

みのさん

ロックバンド「ミノタウロス」としても活躍

―――宇多田ヒカルが示したソングライター的な視点に加えて、みのさんは“桑田佳祐モデル”というコンセプトも提言されています。具体的なソングライティングの方法論というよりも、洋楽に対する姿勢ですね。<ヒット性を保ちつつ、その枠内で最大限の音楽的冒険を行うことを矜持とした。>(p.321)と書かれていますが、具体的な方法論ではなく精神性が作品にあらわれる現象も、また日本的だなと思いました。 みの:サザンオールスターズの後に続くバンドで色々明示されていますけれども、音楽性のジャンルが違っても、アティチュードの面で共通しているのはすごく日本的ですよね。でも、いわゆるビートルズ的な音楽的な実験をしつつヒット曲も出すという形を日本でやろうとしたときに、ビートルズがやった形そのものは日本風に翻訳できないわけです。  それをCharやゴダイゴなどが探っている中で、サザンオールスターズ、桑田佳祐が“ここまではやっていいよ”という限界を明確に見せてくれたんですね。それ以上行ってしまうとアングラ扱いされてお茶の間に出てこられなくなるよ、と。でも、やっぱりロックってギリギリのところまでアクセスしようとするエネルギーにみんな魅力を感じるんですよね。だけど、そこで桑田は“一旦ここまでだよ”という決まり事を楽曲の中で教えてくれたんです。
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「自ら西洋化にかじを切った国は日本だけ」
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史 にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史

YouTube「みのミュージック」で独自の音楽批評をおこない、多くの大人たち・音楽関係者を魅了する著者の第二弾

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