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岸田首相の言葉はなぜ響かないのか?“昭和の名宰相”の演説・スピーチと比較する

最強の説得力は「自分の言葉」で話すこと

 田中角栄は絶対の自信を持つ自らの演説などについて、「スピーチ上手への極意」を次のように語ったことがある。 「ワシの話は、聴衆が田舎のジイサン、バアサンでも、学生、サラリーマン、会社経営者でも、議員でも役人でも、誰もが分かるようにできている。つまり〝のけ者〟は一人もいない。暗い話は一切しない。誰もが『ああ、今日は話を聞いて良かった』と、心の底に何か一つでも持って帰れるようになっている。ダメな話の典型は、たいそうな話をするが、どうにも心を打つものがないというヤツだ。また、聞き手の気持ちが眼中になく、自分を売り込むことばかりの話も相手にされない。  そのうえで最も大事なのは、〝自分の言葉〟で話せるかどうかだ。本、新聞、テレビ、あるいは友人、知人から借りた、どこかで聞いたような〝他人の言葉〟の羅列はダメだ。たとえ稚拙でもいい、とにかく自分の人生経験から得た〝自分の言葉〟で話すことだ。一所懸命で話にかわいげがあれば、聞き手は少なくとも耳を傾けてくれるはずだ」

黙っていても誰もついてこない

 田中は聴衆の質、数にかかわらず、演説、スピーチで会場を一体化させ、盛り上げる名手だった。特筆すべきは〝借りてきた言葉〟が一切なかったことで、自分の言葉が最強であると知っていた。政治家だけでなく、部下を抱えるあらゆる組織の上司、リーダーたる者は、スピーチ力が問われることを改めて自覚すべきである。言葉で説得せず、黙っていても部下がついてくるのは、高倉健くらいしかいないのである。  幹事長時代の田中は、政治家として最も脂が乗り切ったといわれていた。当時の自民党本部幹事長室の職員による証言がある。 「田中幹事長の演説会があって、超満員の大盛況でした。田中さんは演説が始まる前、私を呼びつけると『いいか。ワシが話を始めて5分たったら、中身はどうでもいいからメモの紙を入れろ』と妙なことを言うんです。私が指示通りにすると、田中さんは聴衆に向かって『いまね、事務局から〝時間です〟というメモが入った。冗談じゃないね。こんな大勢に来ていただいて途中で帰れるか。ねぇ、皆さん、そうでしょ!』と言ったから、聴衆がワッと沸いた。この程度の演出など、田中さんにとっては朝飯前でしたね」  こんな〝芸〟ができるかどうか。ここまで知恵の回る上司なら、部下がついてくること間違いなしである。
1941年8月26日生まれ。東京都出身。半世紀にわたる永田町取材歴を通じて、抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析など幅広く活躍する気鋭の政治評論家。 歴代実力政治家を叩き台にした指導者論、組織論への評価は高い。田中角栄研究の第一人者。1968年から政治評論家となり現在に至る。
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甦れ 田中角栄 人が動く、人を動かす 誰でも分かる「リーダー学」入門 甦れ 田中角栄 人が動く、人を動かす 誰でも分かる「リーダー学」入門

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「角栄流」の極意が明らかに

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