世界有数の“熊被害大国”日本が抱える特殊な事情。駆除せず山に返した熊は「すぐに人里に戻ってくる」
2023年の春から秋にかけ、熊被害が増大したことが大きな話題となってきた。それも住宅地に出没し、人間を恐れない「アーバン熊」と呼ばれるタイプの熊が原因だった。
熊についてあれこれと調査すればするほど、冗談抜きで「現在の日本の状況はきわめて危険ではないのか」という結論が出てくる。
まず驚いたのが、アジア全域に広く生息するツキノワグマだが、日本以外の全生息数よりも日本の本州における生息数のほうが多いのだ。これは北海道のヒグマにも当てはまり、ユーラシア大陸から北米大陸に広がるヒグマの生息地のなかで、最もヒグマの生息密度が高いのが北海道なのだ。
どちらも日本以外では絶滅の危機のおそれのあるレッドリストに登録され、人間の保護対象となっている。それが1億2000万人の暮らす日本では、なぜか頭数が増えすぎてしまい、熊が“人口爆発”を起こしているのだ。
(本記事は『アーバン熊の脅威』(宝島社)より、抜粋したものです)
なぜ日本は、世界でも類を見ない“熊被害大国”となったのか。現在日本には、北海道にヒグマが推計で1万1700頭、本州と四国には4万4000頭前後のツキノワグマが生息するとされ、全国トータルで最大5万6000頭程度が生息すると考えられている。
北米大陸の熊の生息数は100万頭近いともいわれ、それと比べれば日本が特別に多いわけではない。だが北米では、人間の居住域の広がりとともに森林はどんどん切り拓かれ、それに伴い熊は駆除される。そのため熊の生息域は限定され、人間と熊の接触する機会はきわめて少ない。
中国でも北米と同様の理由で熊の駆除は進められている。同時に、熊の掌は高級食材として、胆囊は漢方薬(熊胆)として珍重されているため、民間人の狩猟対象となり、生息数は減少の一途をたどっている。
日本の場合は国土そのものが狭く、地勢的に人間の居住区と熊の生息域が隣接している。「熊」という言葉が「カミ」の語源だとする説があるように、熊を神聖視する文化・風習が残っており、人間に害を及ぼさないかぎり、無闇に熊を駆除することはしない歴史がある。
そんな日本において、明治初期からの北海道開拓期には、新しい土地を求めて人間のほうから熊の生息域に踏み込んでいった。そのことで、日本人は多大な人的被害を熊から受けることになってしまった。
北米や中国と大きく異なる日本の現状
熊を神聖視する文化・風習が残っている
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