引きの画面で引き出される山﨑賢人の色っぽさ
同作で廣木隆一監督は、それまでのきらきら映画にはあまり見られなかった演出を試みている。冒頭、二階堂ふみ扮する篠原エリカが彼氏をでっち上げなければならず、渋谷の雑踏で見かけた佐田恭也(山﨑賢人)をパシャリと撮影するまでの長回し。気持ちが高まって告白したエリカを恭也が軽くあしらう場面でのロングショット。あるいはクライマックスで神戸の街を疾走する山﨑などなど。
一連の場面はすべて引きの画面。好きな俳優の顔を出来るだけ大写し(アップ)で見たいと所望するのが素直なファンの気持ちだろうけれど、廣木監督はあえて引きのポジションにカメラを置く。それによって山﨑の全身から色っぽさを引き出した。恭也が熱を出してソファで寝込む場面など、逆にアップのときは、さりげない間接照明で柔らかな官能を漂わせる(さすが
『性虐!女を暴く』(1982年)をデビュー作とする廣木監督だ……)。山﨑だけでなく、ほんの端役出演だった横浜流星がカフェから飛び出してくる引きの画面だって見逃しちゃいけない。あのワンショットがあったから、今の横浜の活躍があるといっても過言ではない。
興行面から見ても、初週2億3千万円の好成績。最終的に12億円以上。前年の
『ヒロイン失格』は24億円を突破していた。実写化ラッシュに湧く2010年代、最大潮流だったきらきら映画の申し子として輝く山﨑は、日本映画界を疾走し続けた。それが2017年の
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』あたりを機に、徐々に実写化作品から軸足を移すことになるのだが、
それでも尚彼がスター俳優であり続けるのはなぜなのか?
4月15日に放送された
『日曜日の初耳学』(TBS系)では、MCの林修による興味深いインタビュー映像が公開された。
数々の実写化作品で難しいアクションを猛特訓の末に物にした山﨑に対して、林が「日本のトム・クルーズ」ではないかと問いかけたのだ。
なるほど、トム・クルーズか。冗談半分とはいえ、
『ミッション:インポッシブル』シリーズ(1996年〜)など、60代になった現在でもスタントなしのアクションをこなすトムを引き合いに出した林の問いかけをもうすこし深堀りしてみる必要がある。誰もが知る世界的スター俳優であるトム・クルーズは、並外れてセルフ・プロデュース能力の高い人だ。1986年公開の主演作
『トップガン』ですでにプロデューサー的に振る舞い、フレーム内の自分がいかに最適に収まるかを知り尽くしている。両腕を極端に振り上げる特有の走り方など、あらゆる画面上が計算づくの演技。山﨑も俳優のタイプとしては同様の素質だと思う。
『オオカミ少女と黒王子』での神戸の疾走はもちろん、表情が際立つバストショット、手元アップの細部まで、画面サイズに合わせてその都度、神経を張り巡らせ、感覚を研ぎ澄ませる。完璧にフレームに収まる人である山﨑は、トム・クルーズ的なスター俳優の系譜だといえるし、
もしかするとこの先、トムのようにプロデューサー(製作)として主演作でクレジットされることがあるかもしれない。
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:
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