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女性はダメンズが大好き?又吉直樹原作の映画『劇場』に見るモテの皮肉/藤沢数希

―[モテる映画工学]―
~映画『劇場』~
モテる映画工学

©2020「劇場」製作委員会

女はダメンズが大好き! 夢を追いかける脚本家と堅実な女子の恋物語

 主人公の永田(山崎賢人)は友人と劇団を立ち上げ脚本を書いている。しかし劇団は鳴かず飛ばずで、永田は劇団員たちからも見放されつつあった。そんなとき、女優になる夢を抱えて上京してきた沙希(松岡茉優)を永田は道端でナンパするのだった。  永田はナンパでカネがないことを正直に話したところが面白がられ、まんまとアイスコーヒーをおごってもらうおいしい展開に。この映画は夢を追いかける脚本家と、夢を持ちつつもちゃんと生活のための仕事もしている堅実な女子との恋物語である。  主人公は脚本家だが、これはあらゆるダメンズのメタファーである。バンドマン、バーテンダー、美容師など、女にモテるこれらの職業は“ダメンズ3B”と言われるが、永田も負けず劣らずダメンズだ。そして、素直で家事なんかをちゃんとやりそうな女性が、こういうクズ男性にハマるのである。  永田は沙希の家に転がり込むのだが、特に家事を手伝うわけでもなく、生活費を負担するわけでもなく、すべて沙希持ち。そんなヒモ状態にプライドを傷つけられた永田はモラハラはするわ、沙希の男友達に嫉妬して物を壊すわ、なかなかのクズ男ぶりである。  現実の世界もダメンズがモテる一方、地味な仕事で真面目に働き、浮気のひとつもできない誠実な男性がモテなかったりする。しかし、これこそが僕はとても夢のある話だと思う。競争社会を勝ち抜き金持ちになるのは大変だ。  ところが永田のように、とりあえず夢を追いかけ、将来ビッグになるフリでもしながら道でナンパしていれば、かわいい女が尽くしてくれるかもしれないのだ。女にモテるのにカネはいらない! (監督/行定勲 原作/又吉直樹 7月17日より公開、Amazon Prime Videoにて全世界独占配信開始)
物理学研究者、投資銀行クオンツ・トレーダー職等を経て、作家・投資家。香港在住。著書に『外資系金融の終わり』『僕は愛を証明しようと思う』『コスパで考える学歴攻略法』などがある
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