石橋静河の“濡れ場を運動に変換する”資質に驚き。出演作品を見た記者は「現代のロマンポルノ」だと思った
地方から上京してきた主人公が、ある裕福な夫婦に卵子提供する。『燕は戻ってこない』(NHK総合・毎週火曜日よる10時放送)は、それだけで十分ソーシャルな物語だが、石橋静河が演じることでさらに踏み込む。
いい演技だなんて軽々しく言うと野暮になる。良いか悪いかではなく、ただただ生々しい人。それが石橋静河だと思うからだ。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、石橋静河のロマンポルノ的資質を解説する。
病院の事務職。手取りは14万円。家賃や光熱費などを引いたら、残りは1万円くらい。それを貯蓄に回そうにも先の見えない不安にただただ、ため息が出る。前職の介護職に戻ろうとも思わない。大石理紀(石橋静河)は言う。「腹の底から金と安心がほしい」と……。
そんな彼女に同僚・テル(伊藤万理華)が、卵子を提供するエッグドナーで稼げる方法を教える。教えると言うより、自分は登録したから一緒にやろうよとゴリ押しする。テルは、奨学金の返済が500万円あり、風俗店でも働いている。ふたりが生々しい会話をするのは、コンビニのイートインスペースだが、「たまには外食もいいよね」とテルは言う。理紀の昼食は、カップ麺とおにぎりで「炭水化物祭り」。まずおにぎりをがぶり。三角形が台形型になる。このひと口が何だか妙に生々しい。
テルは大き目のカレーパンを食べたあと、シュークリームの袋を開ける。半分にわって理紀に渡す。台形型になったおにぎりが残された状態で、渡されたシュークリームをパクり。「ウマッ」と短く発して一瞬微笑する。やっぱり生々しい。どうしてこんなにと不思議に思うくらい。石橋静河と食べ物の組み合わせがそうさせるのだろうか? あるいはその微笑が刹那的だからだろうか? いずれにしろ、ゾクッとするほど生々しいこの微笑は、そのあとの場面でも連動する。
帰宅した理紀が発泡酒をすする。スマートフォンを立て掛けて、動画を見ていると、一件の通知が。開くと(ボタンを押す瞬間が3カットも繰り返され、さすがにクドいが)、生殖医療専門エージェンシー「プランテ」のサイトだった。彼女の心は決まった。すぐにエッグドナー登録フォームから情報を入力していく。動機には、「人の役に立ちたい」と打ち込む。自分で打った内容にフッと冷笑気味に微笑する。うーむ、今度は食べ物ではないが、石橋静河の微笑がじわじわ連動している……。
翌朝、出勤準備でバタバタしている。その日は弁当を作ってある。白米に海苔を敷いて、その上にたらこが1尾乗っている。無造作に置かれていると言った方がいい。薄暗いアパートの台所で、たらこがグロテスクに光る。食べ物を口にした微笑だけでなく、食べ物そのものが生々しく写る。
このたらこ、そのあとの場面のしたたかな伏線になる。急いで出勤しようと、自転車を出す理紀だが、隣人・平岡(酒向芳)がやって来る。自分の自転車を汚しただろうといちゃもんをつけてくるのだ。とにかく急いでいる理紀に対して平岡はしつこい。隙をついて自転車を発進させるが、後ろから追ってくる。弁当は置いてきてしまう。
ゾクッとするほど生々しい微笑が連動
食べ物そのものが生々しい
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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