実写化俳優が完全カムバック
2028年まで出演作品がうまっている山﨑が、なかなか民放のテレビドラマ作品に出演できないという問題もある。2018年放送の
『グッド・ドクター』以来4年ぶりの主演ドラマとなった
『アトムの童』(2022年)以降、まだテレビドラマ主演作の製作発表はない。映画俳優として映画を優先するのは当然だし、是非そうしてほしいとも思うが、でも欲を言えば、やっぱり映画と並行してほしい。
『好きな人がいること』(フジテレビ系、2016年)以来、きらっきらの「夏だ!海だ!」ドラマの傑作が生まれていないんだもの。『オオカミ少女と黒王子』で全力開放したリアリズム志向の持ち味を生かし、湘南の陽光と潮風を全身に浴びた同作の山﨑に対してぼくは、イタリア映画界の巨匠マルコ・ベロッキオ作品を引き合いに出したほどだ。映画界が手放すわけない。
事実、次なる実写化時代を告げる『キングダム』シリーズが用意されることで、第1作公開(2019年)から怒涛のシリーズ化によって2020年代に突入した。
実写化不可能といわれた原作だからこそ、実写化俳優の完全カムバックを物語る。これまたシリーズ作品
『ゴールデンカムイ』(2024年)第1作では、不死身の戦士役で湯船からざぶっとあがり、雄々しい肉体を露わにする。2010年代に実写化王子と呼ばれた山﨑ではなく、2020年代仕様にアップデートされた実写化俳優の堂々とした姿があった。というか、ここまで複数のシリーズ作を掛け持つ状態で完全燃焼しても燃え尽きず、次の作品に挑めるバイタリティは尋常じゃない。
もはやトム・クルーズ以上では?
『ゴールデンカムイ』の湯船シーンが象徴するように、山﨑は10キロの増量で撮影にのぞんだ。その一方、翻って公開中の
『陰陽師0』では、逆にかなり線の細い立ち姿が印象的だ。狐の子といわれた安倍晴明を演じるからにはどこか人間離れしていなきゃならない。青年期の晴明の身のこなしは軽く、陰陽寮から逃走する場面では、着物の袖とのけ反るアクロバティックな動きでさすがのアクション・シーンだ。
夢枕獏原作によるこのシリーズだと正直、
『陰陽師』(2001年)の野村萬斎の美しさには敵わないかと思った。その野村や放送中のNHK大河ドラマ
『光る君へ』(NHK総合)のユースケ・サンタマリアなど、目が細めの俳優たちによって安倍晴明俳優像はイメージされてきたのだが、山﨑が演じる青年期となるとなるほど、キツネ目の系譜を換骨奪胎。ポンポコポン、頭に葉っぱ1枚のせたたぬき顔変化(?)みたいな雰囲気で新たな安倍晴明像が浮かび上がる。
『陰陽師0』がこれまでの作品と決定的に違うのは、鬼の存在が信じられていた平安時代にあって、鬼の存在など陰陽寮が吹聴する嘘だと喝破する若き晴明の解釈にも起因する。晴明からすれば、ただ事実がそこにあるのに、暗示にかかった人々が勝手な主観を真実だと説いているだけだと。全ては偽物。そんな世相を読み解く透徹した眼差しは、『オオカミ少女と黒王子』の佐田恭也さながらの批評眼だ。クールな性格まで瓜二つ。
思えば、『L・DK』、『ヒロイン失格』などを通じて山﨑が繰り返し演じてきたのは、“過去に何かを背負った人物”だった。『陰陽師0』の安倍晴明もその意味で山﨑的キャラクターの代表格に位置付けるべきだろう。ただひとり、本物の存在である晴明の気迫に満ちた決め台詞「そう、あなた方と違ってね」は、30歳を目前にしたスター俳優の総決算として響いた。この台詞を噛み締めれば、単なるラブコメ映画のひとつに過ぎないという評価にとどまった『オオカミ少女と黒王子』が、ほんとうは事実、時代を代表すべき「あなた方と違ってね」作品だったことに気づくはずだ。
<TEXT/加賀谷健>
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:
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