低視聴率で苦しむ『おむすび』だが、見どころは“本来の姿”を取り戻した橋本環奈にアリ
こういう橋本環奈を待っていたんだ! と、芸もなくひとりつぶやいてみる。『おむすび』(NHK総合)の不評続きに対して、どうせ闇雲にいってるだけだろう?
いや違うんだよ。こういう橋本環奈とは、生身の姿で画面上に存在する橋本環奈のことである。数々の実写化作品に出演する過程で生身の彼女が消耗していた。でもここにきて、再び彼女は本来の姿を取り戻した。
だから不評だろうとなんだろうと、橋本環奈主演作としての『おむすび』はそれなりの価値がある作品だと思うのだ。イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、橋本環奈の過去作を振り返りながら解説する。
『おむすび』1週間分の平均視聴率が12%台となり、朝ドラ歴代ワーストを更新するんじゃないか云々と、メディアがいたずらに騒いでいる。でも視聴率とは製作サイドの関心事に過ぎず、作品を見る側の純粋な気持ちが必ずしも反映された民意ではない。それから前作『虎に翼』があまりにも面白かったからといって、単純な比較論もそろそろやめにしたい。
まったく曇りない目で『おむすび』をまっすぐまなざす。するとこれが案外というか、普通に面白い。別に逆張りではない。映像処理があまりに的確だった前半部に対してまるで現代史の授業を受講している気分にさせられた後半部をもつ前作よりむしろ楽しめているというだけだ。
特別、橋本環奈ファン(プライベートの彼女に会ったときの横顔は忘れがたいが)というわけではないぼくでも、第1週第1回冒頭の橋本に対しては「そうくるか!」とワクワクした。セーラー服姿の主人公・米田結(橋本環奈)が鏡に向かっている。一階にいる家族たちが遅いな遅いなといいながら朝食を取る中、高校の新学期を迎えるための身だしなみチェックで手間取る。リボンの位置が気になり、襟元を一度ゆるめたりしながら、いい具合の位置を定める。どうしてこんなに丹念に制服を調整するのか。あぁそうか。この場面の5カットが提示しながら呼び起こすのは、橋本環奈とセーラー服との関係性だ。
2016年、初主演映画『セーラー服と機関銃-卒業-』が公開された。公開中にちょうど17歳の誕生日を迎えた。1981年公開の『セーラー服と機関銃』主演の薬師丸ひろ子もまた、主人公・星泉と同じ17歳だった。同作から35年後、こうした年齢の一致に角川映画40周年記念作品としての意気込みを感じ、「1000年に1人の逸材」と称されていた橋本のセーラー服の着こなしはあざやかだった。
同作の製作総指揮に名を連ねたKADOKAWA代表取締役・井上伸一郎は、製作発表記者会見(2015年)前の2013年、福岡のアイドルグループに所属していた中学3年生の橋本をイベント中に捉えた、いわゆる「奇跡の一枚」と呼ばれる写真に惚れ込んだひとり。事務所宛に橋本を主演にしたいとメールを送るほどの力の入れようだったわけだけれど、そうした背景を抜きにしても同作の橋本は、あの名台詞「カ・イ・カ・ン」を冒頭第一声として新たな血肉とするようにありあまる才能をだしきった。
日本映画界のトレンドに目を向けるなら、少女漫画を原作とするいわゆる「きらきら映画」全盛期。特に2016年は、「実写化王子」の異名を取った山﨑賢人主演の『オオカミ少女と黒王子』やこちらは少女漫画ではなく小説原作だが高畑充希と岩田剛典がW主演した『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』など、きらきら映画の金字塔的作品が続々公開された当たり年だった。
前作が面白かったからといって……
2016年という当たり年
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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