東京出身者に対するコンプレックスが徐々に…
浪人期間は、流太さんにとって「生まれ直した」とさえ思うくらい、自身の内面の変化が著しかったのだという。
「予備校時代、東京出身の人に対する格差のコンプレックスが苦悩の中心でした。美大に通うための予備校は東京に偏り、地元では選択肢が限られていましたから。しかし、
自分が羨望している東京出身者であっても、予備校の前後でバイトして通っていたり、そもそも1年間通い続けるお金もないから、前期の間にお金を貯めて後期からようやく来れたという人もいました。『20代半ばにさしかかり、今年がラストチャンス』と、後がない人もいれば、持病があって予備校に通えなくなった人も。ずっと自分のことでいっぱいいっぱいでしたが、みな切実な思いと事情を抱えてここに立っているのだと知りました。
予備校で過ごしてると、“予備校にいる人”のことしか見えてきません。ただ、色んな理由で“ここにいたくてもいられなかった人”は、出身がどこだろうとたくさんいるんですよね。そう考えると、
僕は少なくとも自分がここにいられることに感謝するべきですし、一緒に戦える彼らに対しても感謝し、リスペクトするようになりました。彼らの作品を毎日見て、勝ったり負けたり、喜んだり悔しがったりの繰り返しの中で、お互い上手くなっていくのです。そうしてだんだんと、
『全員蹴落としてやる』という思いが薄れ、『みんなで一緒に受かれたらいいよね』といった境地に達していきました」
アルバイトをしながら予備校に通うことになった2020年、新型コロナウイルス感染症によって世界は混乱した。逆境のなか、
3年にわたる浪人生活を泳ぎきり、晴れて東京藝術大学合格を掴んだ。
入学当初の流太さんは将来、制作したものの売り上げで生活する職業作家になりたいと思っていた。実際にコンペに参加したり、展示会を開いて作品を販売するなど、精力的な活動を続けた。しかしながら、作品が高値で買い取られる現実に喜びを感じる一方で、制作の意味について考える機会が多くなったという。
「有名になればなるほど、美術作品がより裕福な人に買われて、それが作家として成長していく契機になると思います。しかし、自分は逆境に臨む大変な人、例えば地域格差だったり、お金がなくて苦しい思いをしている人に向けて創作物を生み出すことが多いんです。
当時の状況は、自分がやりたいことと逆方向に向かってる気がして。単に高いお金で買ってもらうことが『本当に幸せなんだろうか』と悩んでしまったんです」
アートとアイドルが好きな大学院生。過酷な幼少期をバネにアイドルプロデュース(アイドル失格)を中心に様々な制作に励んでいる。
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