更新日:2024年10月30日 16:21
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現役自衛官が、闇バイトで強盗犯になるまで「クリスマスに遊ぶマネーがほしいです」

小さな集落がメディアスクラムによって事件に巻き込まれた

 2023年1月末、全国各地で散発していた強盗事件が、フィリピン国内で拘束された、複数の男たちの指示のもとで実行されたひと続きの事件であることが発覚。  すると、新聞やテレビなどの大手メディアは、大量の記者を動員して、各地にいる事件の関係者のもとに取材攻勢をかけた。山と棚田に囲まれたこの集落にも大挙して記者たちが訪れ、家々のチャイムを押しては中桐について尋ねてまわったという。いわゆる「メディアスクラム」によって、この地域の人々も突如、「ルフィ事件」の渦中に巻き込まれることになったのだ。    それから1年近い歳月が過ぎても、住民たちはその苦い記憶を忘れていなかった。なかでも記者たちの最大の標的になったのが、中桐の家族だった。    今回、筆者が中桐の実家を訪ねると、ごく短時間だが、中桐の祖父が対応してくれた。  日時は日曜の昼前。敷地内に蔵のある重厚な日本家屋の玄関先に現れた祖父は、チェック柄の厚手のネルシャツに、スウェットパンツ姿である。年末の穏やかな時間を切り裂いた訪問者に向けられたその顔には、不審や怒りが入り混じった感情が浮かんでいた。

「うちにはなんにも、なんにもありません。」と語る実行犯の祖父

――中桐海知さんの取材で伺いました。海知さんはこちらの出身ではないですか。 「うん、うん。あんたら、何十人ってタクシーで来て、それでかき回してもうて、どの家も、この家も迷惑をかけて。この組(自治会)ではもう、あるもん、なんにもない」 ――たくさんのマスコミが訪れた? 「あんたら、お金儲けで(取材を)やっとるやっちゃさかい。うちの親戚もみんな弱って、みんな(メディアスクラムで)やられてしもうて。うちにはなんにも、なんにもありません。お宅が(取材で情報を)取りに来てもうても、なんにもなりませんね。お金儲けになるもん、とられるもん、なんにもない。あるのは私の命だけや。さかいに、もうお話をすることはありません」  命以外、すべて奪われるかのような苛烈な取材合戦が繰り広げられ、そのことで家族の心は深く傷つけられたという。それは、中桐とその家族が味わうことになった強盗事件のもうひとつの断面だったと言える。

「親が仕事をクビになり、兄の結婚が“なし”になりました。」

 中桐本人も、安易に手を出した闇バイトによって、家族に大きな犠牲を強いたという思いはあったようだ。前述の裁判における被告人質問で、中桐は次のように語っている。 「(ミツハシに)免許証の写真を取られていたので、『実家住所がわかる』と言われ、怖いと思った。めちゃくちゃ後悔した」 「犯行後、親が仕事をクビになり、兄の結婚が〝なし〟になりました。自分勝手な行動で責任を感じています」(TBS系 NEWS DIG 2023年8月2日放送)  軽い気持ちで無防備に闇バイトに手を染めた代償はあまりに大きかった――。 <取材・文/週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班>
『週刊SPA!』誌上において、特殊詐欺取材に関して、継続的にネタを追いかける精鋭。約1年をかけて、「ルフィ」関係者延べ百数十人を取材した
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「ルフィ」の子どもたち 「ルフィ」の子どもたち

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