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「東大前駅切りつけ事件」はなぜ起きたか。“教育虐待されていた東大生”が語る「異常に教育熱心な親」の実態

 2025年5月7日、東京メトロ東大前駅で切りつけ事件が発生しました。男の動機は「教育虐待の被害を受けた子どもの末路を、『教育熱心』な親たちに示したかったから」。東大前を選んだのも、「東大」の名を冠した駅であれば、教育虐待への注目度がより高まると考えてのことだったそう。  ですが、同じく親から「厳しく管理されながら育った」という現役東大生の柊さん(仮名)は、「東大前で起きた切りつけ事件の犯人の訴えは、きっと教育虐待をしている親には届かない」と語ります。  なぜ彼女は犯人の訴えが空を切ると断言できたのでしょうか。現在は親と決別する道を選んだかつての被害者に、「教育虐待」の真の問題点を尋ねます。
柊さん

柊さん(仮名)

「管理」してきた親への叛意

ーー柊さんは「厳しくしつけられて育った」と伺っていますが、どのような「しつけ」があったのでしょうか? 柊さん:私は、シングルマザーの母と兄と、3人暮らしの家庭に生まれました。母は私のすべての行動を管理していて、友達と遊ぶには「今日は○○ちゃんの家に遊びに誘われているから行っていいですか」と尋ねなくてはいけなかった。もちろん、ほとんど許可はおりません。  勉強以外の娯楽も基本的には禁止で、漫画やゲームはもちろん、小説なども買ってもらえませんでした。スマホは持たされていましたが、連絡手段としてのみ使用が許可されていて、常に使用状況が監視されていました。  学校の調べ学習で起動すると「今は授業中でしょ?どうしていま起動しているの?」とすぐにメッセージが飛んできたことも。  当然将来の夢なども一切持たされず、「母の言う通り、私は東大を受験して、卒業後は地元に戻ってきて地方公務員として暮らすのだ」と信じていました。

親は「教育虐待」とは思っていない

ーーいまは家出をして、お母さまとは「決別」されたそうですが、柊さんはご自身の経験が「教育虐待」に当てはまると考えていますか? 柊さん:「教育虐待」って、割とあいまいで、難しい言葉なんですよね。虐待には「身体的虐待」「精神的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」の4種類があって、多分「身体的」「精神的」の虐待が、教育の名のもとに正当化される状況を「教育虐待」と呼ぶのでしょう。  そう考えると、私は生活や進路を強制される「精神的虐待」を受けていました。  ただ、無理やり机に縛り付けるだけが「教育虐待」じゃないんですね。親はあくまで「あなたのために勉強させてあげている」という立場なんです。私は学校の成績が良かったから、東大を「受験させてもらっていた」。親目線では「虐待」ではないんです。 ーーでは、今回の事件の犯人の言い分について、どうお考えですか? 柊さん:正直、彼の訴えでは何も変わらないと思います。犯人の主張は「教育虐待をすると、子どもがグレて犯罪者になる」でした。  ただ、先ほども述べた通り、親は「いいことをしている」と思い込んでいるんです。自分の「教育」の結果が、悲惨な末路を辿るとは夢にも思っていない。  あの警告が届くような人は、もともとそれが異常なことだとわかっていますから、子どもに「熱心な教育」なんてしません。ですが、子どものほうは確実に親への敵意を蓄積していくでしょう。その噴出先として、今回は切りつけ事件が起きてしまった。
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柊さんを踏みとどまらせた“ブレーキ”
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1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa

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