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「子供一人ひとりの“違和感”を大切に」現役中学生の研究成果が100万回再生。“研究の楽しさ”と出会った科学教室の“斬新な教育方針”とは

日本最大の化学学会に関する地方局のニュース動画が100万回近くも再生された。何のトピックが世間の注目を浴びているかというと、現役中学生が研究成果を発表したことだ。若き俊英に向けて、日本中から熱い視線が集まっている。 3月26日から29日まで開催された「日本化学会」の第105春季年会で、「老化を促進する要因である“糖化”の進行を可視化させる研究」を発表したのが、宮崎香帆さん(中学2年生)。 宮崎さんが研究の楽しさと出会った場所が、大分県にある科学教室「うちらぼ」である。代表を務める加世田国与士(かせだくによし)さんは、情報工学・医学博士である。 本記事では、生粋の研究者である加世田さんが「子どもが学べる場」を提供するに至った経緯と、背景にある思いを語ってもらった。
うちらぼ

うちらぼ代表の加世田国与士さん(写真左)と奥様の千絵さん(写真右)

生徒に訪れた異変がきっかけで一念発起

研究者として企業の研究所を担う一方で、週末限定で近所の子どもたちに英語や、研究について教えるボランティアをしていた加世田さん。 新型コロナウィルスの感染拡大で一斉休校になった時期、加世田さんのもとに通っていた生徒の一人は、「自分のペースで勉強ができる!」と喜んでいた。だが、次第に元気がなくなり、話しかけてもボソボソとしか喋れない状態になってしまったという。 「コロナ禍でも、オンラインを軸に子どもたちとのコミュニケーションを続けてたのですが、ある日『学校行きたい。友達に会いたいです』とその子が泣き出して……。週末だけでは生徒さんを補いきれないと思っていたこともあり、『子どもと一緒に研究ができる場所があったほうが良いんじゃないか』と思い至ったんです。妻の後押しもあって『うちらぼ』をつくりました」(加世田さん)

「科学を専門的に学べる場所」だけではない

これまで、出張講座やイベントで延べ3000人の子ども達と触れ合ってきた。「うちらぼ」には、現在進行形でたくさんの子ども達が訪れている。 「ピアニストになりたければ、専門的にピアノを学んでいる先生から教わるし、野球選手になりたければ、野球のコーチに教えてもらうと思います。ですが、日本では科学を専門的に学べる場が少ないのが現状です。ハードルになってしまっているのは、バイオ系の研究にはコストがかかるためだと考えられます」(加世田さん) 「科学を専門的に学べる場所」という当初の目的以外にも、“ならでは”の役割を果たすようになる。 「発達障害、アスペルガー、ギフテッドなど、特定の個性や才能がある子ゆえに、他者とのコミュニケーションをうまく取ることができず、学校などで心の居場所がないというお子さんが来るケースも少なくありません。そういう特性を持った子どもは、興味のあることに関しては知識量がすごく、良くも悪くもずっと話していられるもの。 ただ、学校ではその性質がマイナスに働いてしまうこともあります。ここでは、そうした子どもの話を「もっと教えて!」と前のめりで聴いているのですが、気づかされることは山ほどあります。うれしいことに『うちらぼ』は心の受け皿としても機能しているようです」(加世田さん) 子どもたちの個性や才能を伸ばし、突出した人材を社会に結びつける教育を実践ーーまさしく「うちらぼ」のストロングポイントといえよう。
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子どものなかにある“違和感”を大切にする
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歌手・音楽家・仏像オタクニスト・ライター。「イデア」でUSEN1位を獲得。初著『生きるのが苦しいなら』(キラジェンヌ株式)は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。日刊ゲンダイ、日刊SPA!などで執筆も行い、自身もタレントとして幅広く活動している
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