「高校時代に母を介護」ヤングケアラーをモチーフに“満身創痍のデビュー”した24歳女性作家の素顔
上村裕香(かみむらゆたか)さんは、京都で大学院に通う24歳。難病の母を介護しながら高校に通う女子高生の日常を描いた『救われてんじゃねえよ』で、第21回「女による女のためのR-18文学賞」の大賞を受賞した。
母親の排泄を介助するシーンからはじまるこの物語は、介護と貧困のリアルに目を覆いたくなりつつも、読まずにはいられない吸引力がある。「満身創痍のデビュー作」とうたわれたのは、上村さんの実体験を元にしているからなのだろうか? どんな人なのだろうと強く興味を引かれ、「次作のロケハン」のため上京したという上村さんに会いにいった。
サラサラのおかっぱ頭。丸い眼鏡をかけ、カジュアルなTシャツを着て現れた上村さんは、少女のような可憐さを留めている。こんな華奢な女性が、あんなに力強い文章を生み出すのか、と驚いた。
今日はどこに泊まるのかと尋ねると、「まだ決めてないんです。東京ってホテル高いですね。ネカフェでいいかな、と思って……」。注目の新人作家は、屈託のない笑顔でそう言った。京都からの行き来は格安の高速バスを利用しているという。大きな文学賞を得て知名度も上がれば、取り巻く環境はずいぶん変わるのではと想像するが、上村さんは淡々としたものだ。
初めて小説を書いたのは、小学校4年生。卒業文集にも、「小説家になりたい」と残している。
「最初に読んだ本がSFの本だったので、それに影響を受けました。だから初めて書いた小説も、SFでしたね。だけど、教室でずっと本を読んでいるとか、そういう文学少女という感じではなかったです。休み時間は、外でサッカーをして遊ぶような小学生でした」
現在は京都芸術大学大学院で、メディア論を研究している。文芸表現学科に所属していた大学時代から、ゼミで小説の読み方、書き方を学んだと話す。小説を書き、意見を交わし合える学友に囲まれて過ごしてきた。ゼミ生の仲間たちは、上村さんの作家デビューについてどう反応したのだろう。
「うーん。私という作者自身に対するコメントはほとんどなくて。『ここはもう少しこうした方が良かったんじゃないか』とか、テクストに対するコメントはいろいろ、してもらいましたね。作品は作品、作者は作者、基本的には、そういうスタンスの人が多いです」
仲間たちは作品と上村さんをきちんと切り分けて考えてくれるというが、一般読者はどうしても主人公と作者を重ねてしまうものだ。そういう見方をされることについて、どう考えているのだろうか。
「私自身がモデルというわけではなく、実体験を元にしている部分もあるということ。作品はフィクションで、物語の中で起こっている出来事の多くは創作です。でも、その根底に流れている感情というか、主人公が抱いている、この世界に対する視点とかは、自分の経験を反映している部分が多いと思います。読んでいただいて、どう感じてもらうかは、読者の方に委ねたいですね」

上村裕香さん
高速バスで東京へ。宿泊は「ネカフェでいいかな」
主人公と作家自身を重ねられるのは仕方がない?

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ライター。愛知県出身。広告代理店、編集プロダクション、リゾート施設広報を経てフリーに。得意分野はインタビュー、ライフスタイル、フード、ワインなど。フランス語をマイペースで勉強中。X:@3mo6ab3jK2IHBoV
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![]() 17歳。誰かの力を借りなきゃ、笑えなかった――。主人公の沙智は、難病の母を介護しながら高校に通う17歳。母の排泄介助をしていると言ったら、担任の先生におおげさなくらい同情された。「わたしは不幸自慢スカウターでいえば結構戦闘力高めなんだと思う」。そんな彼女に舞い降りたのは、くだらない奇跡だった。満身創痍のデビュー作。 ![]() |
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