更新日:2025年09月28日 09:24
仕事

北海道から本州へ「競走馬を運ぶ仕事」の知られざる裏側…特注の“馬運車”は「1台6000万円以上」過去にはオグリキャップやディープインパクトも

「どの競走馬を運んでいるかはお話できないのですが、すでに引退した馬であれば。過去にはオグリキャップ、トウカイテイオー、スペシャルウィーク、ディープインパクト、ドウデュースも当社で輸送させていただきました。名立たる競走馬を運んできました」  記者が挙げた亡き名馬にうなずく形で明かしてくれたのは、競走馬の長距離輸送を手掛ける大江運送(北海道新ひだか町)の白川典人社長。同社は1969年の創業以来、半世紀以上にわたって競走馬を運び続け、長距離輸送ではトップシェアを誇るプロフェッショナル集団だ。  競走馬の長距離輸送とはどのような業務なのか。名馬を運ぶことにプレッシャーはないのか。ドライバーはどんなスキルが求められるのか。知られざる舞台裏を聞いた。
大江運送

白川典人社長

競走馬を輸送する「馬運車」

 競走馬の輸送は「馬運車」と呼ばれる特殊な車両で行われる。高速道路などで「競走馬輸送中」と書かれたトラックやバスタイプの車を見かけたことはないだろうか。競走馬の98%が生産される北海道、JRA(日本中央競馬会)のトレーニングセンターがある茨城県や滋賀県、各競馬場の近隣に住む人にはお馴染みの光景だが、あれが馬運車だ。 「競走馬の輸送は主に2種類あり、1つはトレーニングセンターから競馬場まで運ぶレース輸送車、もう1つが北海道の生産牧場や育成牧場から本州のトレーニングセンターまで運ぶ長距離輸送車です。私たちは後者を手掛けています」(白川社長、以下同じ)

知られざる馬運車の内部「馬の様子は常にカメラで確認」

 現在の長距離輸送の主流は6頭積のトラックタイプで、ドライバー2人体制で輸送されている。 「車両後部の馬房は『畳』と呼ばれる仕切りで区切られています。馬が暴れても傷つかないように、ある程度の強度を持つクッション性の高い素材を使っています。かつては本物の畳を使っていました」  馬はとても繊細な生き物だ。そのため馬運車にはさまざまな設備が整っている。 「馬は人間よりも体温が高く、車内に熱がこもってしまうので、エアコンではなく、強力な冷気を出す冷凍機を搭載しています。特に北海道と本州の気温差が激しい春と秋は気を遣います。冷凍機と換気で微調整しながら、馬にストレスが掛からないよう緩やかな温度変化を心掛けています。輸送中も馬の様子は常にカメラで確認し、異変があればすぐに対応できるようにしています」  その他にも馬のストレスを軽減する工夫は枚挙にいとまがない。 「複数の馬を載せる時は牡馬を前に、牝馬を後ろにして前から後ろへ空気を循環させ、牡馬が興奮しないように配慮しています。また馬は光や音に敏感なので、車内の馬房はブルーライトを設置し、耳の部分に豚皮を使った独自のメンコで音を遮断するなど、さまざまな工夫をしています」
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さまざまな設備が整った馬運車の価格は「6000万円以上」
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1980年東京生まれ。毎日新聞「キャンパる」学生記者、化学工業日報記者などを経てフリーランス。通信社で俳優インタビューを担当するほか、ウェブメディア、週刊誌等に寄稿

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