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辺境作家がワンカップ酒片手にイスラムと酒を語る

高野秀行氏

ワンカップ酒を片手にイベント会場に登場した高野秀行氏

 タブーを暴きたいんじゃない! ただ、酒が飲みたいだけなんだ!

 宗教的に酒を飲むことを禁止しているイスラム圏で酒を探さざるを得ない状況とは、果たしてどんな状態なのか? そして、実際にイスラム圏に暮らす人々は酒を飲まないのか?

 だが、イスラム圏には以下に記すような数多くの“地酒”が存在するという。

・ブーハ
・アニス酒
・ベルベルウイスキー
・イランの「ドブロク」
・ラク
・シャハバ・ワイン
・アラク……etc.
 
 これだけの酒が存在するのだ。彼らも飲まないわけがない……。

 辺境作家として知られる高野秀行氏の新刊で、おそらく世界初となるであろう、イスラム圏の飲酒事情を描いた“爆笑”ルポルタージュ『イスラム飲酒紀行』が弊社より発売された。

 それを記念して、6月29日に東京・西荻窪の「旅の本屋 のまど」にて発刊イベントが開催されたので、その模様をリポートする。


 筆者はこの本の担当編集として当日は司会進行を担当したのだが、会場の前で高野氏を待っていると、なんとワンカップ酒を片手にご機嫌な表情で西荻窪の商店街を歩いてくる高野氏を発見!!

 4年ほど高野氏と仕事をさせていただいているが、さすがにこんな姿は見たことがない。「『イスラム飲酒紀行』のイベントだから、酒好きを演出しているんですか?」と聞くと、「いやー、この前に講演の仕事がもうひとつあったんだけど、時間がなくて打ち上げができなくてさあ。久々に電車の中で飲んじゃったよ」との答え。すでに酒臭い(笑)。だが、さすがにファンの方々の前で酒を飲みながら話をするのは人生で2回目とのことで、ファンの方にとってもなかなか見ることができない貴重なイベントが幕を開けた。

 宗教的に酒を飲むことを禁じているイスラム圏で、わざわざ酒を飲む……などと書くと何かタブーにチャレンジしているかのようだが、高野氏にそんな意識はまったくない。ただ毎晩、酒を飲まないと一日を終えられないので、酒の入手が難しいイスラム圏で取材しているときも、夜は必死に酒を探す。そこにドラマが生まれ、結果、この本に結びついたわけであるが、実は高野氏は昔はそんなに酒が好きなわけではなかったという。

ミャンマーでアヘンを作って吸っていたら中毒になってさ。アヘン中毒を治すために毎日酒を飲んでたら、こんなに酒が好きになっちゃった。ヤク中を脱出しようとしてアル中になる、っていう世界でよくあるパターンだよ(笑)

 イベントでは酔っ払いながらこんな説明をしていた高野氏。会場も高野氏の本を読み込んだ読者ばかりで説明の必要がなかったが、この記事ではさすがに高野氏の名誉のために補足をさせていただきたい。


【補足1】 ミャンマーでアヘンを吸った経緯は『アヘン王国潜入記』に詳しいが、『イスラム飲酒紀行』と同様わざわざミャンマーまでアヘンを吸いに行ったわけではない。むしろ「絶対にアヘンには手を出さない」と誓いを立てて、少数民族のアヘン栽培村に長期滞在し、ケシの作付けから収穫までをリポートしていたのだが、滞在後半に病気になってしまい、現地の医者からアヘンを吸わされて、不可抗力でアヘン中毒になってしまったのだ。

【補足2】 さらに重要なことだが、高野氏はアル中ではない。ワンカップ酒片手にイベントに登場したと冒頭に書いておいて何の説得力もないが(笑)、四六時中、酒を飲んでいるわけでもなければ、禁断症状があるわけでもない。単に酒が人よりちょっと好きなだけなのだ。


高野秀行氏2

イベント後、ファンの方々と語らいながらサインをする高野氏

  さて、イベントでは「イスラムではなぜ酒を禁ずるのか」「しかし、現地には必ず酒を飲む人々がいて、国にもよるが本音と建前をうまく使い分けている」などの興味深い話が展開されたが、単行本未収録のエピソードが高野氏から開陳されたので最後に紹介しよう。

 イランはご存知のように、非常に宗教的制約が強く、今回の本の中でも高野氏が酒を入手するのに大変苦労した国だが、なんと裏技のように酒が飲める店があるという。

 それはアルメニア人の店で、アルメニア人はキリスト教を世界で始めて国教化した民族。キリスト教はミサでワインを使うので、酒がないと宗教が成立しないので、イラン当局もアルメニア人が酒を飲むことは禁じていないそうである。

 なので、アルメニア人の店に行けば、酒を飲むことができる。とはいえ、店が酒を提供することはなく、みんなどこからか酒を入手して持ち込むのだ。ここで面白いのは、持ち込んだ酒をボトルのままテーブルに置くことは許されず、デキャンタなどに移し変えるように店員から求められるというのである。理由は定かではないが、「多分、警察が来ても何も言われないと思うんだけど、あからさまにボトルの形で置いておくと酒だって一目瞭然だから、カモフラージュをしているんじゃないかな。意味ないと思うけど(笑)」と高野氏は分析していた。イスラム圏の「本音と建前」を感じさせるエピソードである。

 ほかにも、さまざまなイスラム圏の人々の本当の生活ぶりがわかる『イスラム飲酒紀行』。ご興味を持たれた方、ぜひ、書店にてお求めを!

文/織田曜一郎(本誌)


◆高野氏の新刊
『イスラム飲酒紀行』 写真/森清

イスラム圏に暮らす人々の本音とは?






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