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グラフィティの著作権ってどうなってるの? ゲーム『荒野行動』は「著作者人格権」を侵害しているのか<グラフィティの諸問題を巡る現役ライター・VERYONEとの対話>第3回

 1月16日に東京都がバンクシーの作品を「保護」したことを巡り、日本でも「ただの落書きで、違法行為ではないか」「いや、ストリート・アートだ」といった議論が巻き起こるようになった。また、1月25日頃にはパリでバンクシーが少女の絵を描いた扉が盗まれるなど、バンクシーの名前が日々、世間を騒がせている。だが、現場のグラフィティ・アーティトの一部はこの騒動を「バカバカしい」と思っているこのシリーズでは現役グラフィティ・ライターVERYONEと、門外漢としてグラフィティを知識なく撮影してきた記者の奇妙な対話を通じ、「グラフィティとは何か?」「違法性をどう考えるか?」「それはアートなのか?」「アートがグラフィティを回収しようとすることをストリートの人々はどう考えているのか?」を探っていく(全7回予定)。 「ゲームの『荒野行動』ってあるでしょ。あれに、僕のグラフィティが反転されたうえに加工されて勝手に使われているんですよ。しかも、僕のインドネシアのグラフィティ・ライターの友達が自殺しちゃって、そのR.I.P(追悼)のために、書いた場所にも許可を取って合法に書いた作品。だから、めちゃくちゃ腹立ってて。普段はそんなことを考えたりもしないんですけど、この件だけは『訴えたろうかな』って思うぐらい怒ってますよ」

VERYONE氏が発見した、自分の作品が改変されて使われている『荒野行動』の画面キャプチャー写真。次の写真と見比べると、全体を反転させて「RIP」の「R」のラインを1本消し「PIP」になっている。また、本来の作品にはない文字も追加されている

VERYONE氏がインドネシアの友人の追悼のために合法的に書いたグラフィティ。こちらが改変されて『荒野行動』の中に登場している

 今回の大阪取材の前、某所で現役グラフィティ・ライターのヴェリーさん(VERYONE)と飲んでいるときに聞いた話だ。これを聞いたとき、私は「ドキッ」とした。というのも、第1回で書いたように街中のグラフィティやステッカーを「秘めたる趣味」として撮影し始めたとき、実は私も同じようなことを考えていたからだ。  当時の私は展覧会の真似事のようなことをやっていた。撮影し始めて、すぐに思ったことを偽らずに書くとこうだ。 「この落書きやステッカーをいっぱい写真に撮って、バーッと展示したら面白いかも。展示の1作品ぐらいにはなるでしょ。似たようなことをやっている人はいるかもしれないけど、こんな落書きやステッカーなんて、そもそも違法行為だし(許諾を取っているものもあることは今は知っている)、書いている人たちからなんか言われることもないだろう」  だが、すぐにその考え方を改めた。著作権のことも少しだけ頭をかすめたが、「いろいろと面倒なことになりそうだ」というのが大きな理由で、その後は何度も書いているように「秘めたる趣味」としてグラフィティなどの写真を撮りまくってきた。  しかし、「グラフィティの著作権」というのは考え出すと面白いテーマだ。前回に紹介したバンクシーの作品集『Banksy Wall and Piece』には「バンクシーは、不本意ながら、1998年著作権・意匠および特許法の下で本著作物の著作権者であると見なされるよう自らの権利を主張する」との一文が書かれている。先まわって書くと、後述の理由から「作品集」つまり本としての著作権を主張しているのだと思われるが、これを読んだときに「勝手に壁や建物に書いた『作品』にも著作権は認められるのだろうか?」という疑問が湧いてきた。
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そもそもヴェリーさんは「ストリートの論理」で生きている
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