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典型的な郊外の街、茨城県守谷市が世界のアーティストから注目される理由

 茨城県守谷市は東京・秋葉原駅からつくばエクスプレスに乗れば約40分ほどで辿り着く人口約6万7000人の市だ。東京への通勤圏で、守谷駅には構内にフードコートがあるものの周囲には飲食店も少なく、バスは1時間に数本。そこまで不便ではないが、自家用車がなければ行動範囲はかなり狭くなるだろう。いわば日本の至るところにある「典型的な郊外の街」だ。だが、ここにはほかの土地にはないものがある。「アーカスプロジェクト」だ。

「もりや学びの里」という元小学校を利用した施設のなかに「アーカスプロジェクト」はある

 筆者は「アーカスプロジェクト」とは一体、何なのかよくわからないまま、ひょんなきっかけで2016年の11月にそこを訪れることになった。事前に知っていたのは「どうやら外国人の芸術家がそこに集っているらしい」ということぐらい。だが、訪れて驚いた。  まず、なんとも懐かしい雰囲気の漂う元小学校の校舎の中に目的地があることに面くらいながら、中の事務所に入る。すると、地元のボランティアだという女子中学生が照れながら、お茶を出してくれた。 「彼女はダダイズムに興味があるんですよ」とシャイな彼女に代わり、スタッフさんが紹介してくれる。ダダイズムの名前ぐらいは知っているが、アートに疎い筆者はキョトンとするのみだ。曖昧な笑顔を浮かべていると、スタッフさんはまた別のコを紹介して「あのコは人工衛星を使ったアートに参加していたんですよ」と言い放つ。人工衛星を使ったアート? なんだ、それは?

「ダダイズムに興味がある」と言っていた女子中学生が書いたイラスト/アーカスプロジェクト実行委員会提供

 そして、その後ろでは数名の外国人が数時間後に控えた催し物の準備をしており、やや緊張した面持ちで日本人のスタッフらしき人々と英語で打ち合わせをしている。芸術の用語と英語が飛び交う文化度が高めで国際的な雰囲気のする空間と、守谷駅から「アーカスプロジェクト」までののんびりとした郊外の風景が、どうにもアンバランスで面白く感じられた。もちろん、最近は訪日外国人の旅行客も増え、また郊外の街にさまざまな国の人々が働く姿も多く見かける。だが、ここまで日本人と外国人が混じり合い、そして芸術の話を交わしているという風景は、当時の筆者にとって「見たことがないもの」だった。  そして、外国人アーティスト3名による「オープンスタジオ」という催し物が始まった。観終えた感想は「訳がわからない」だ。どうやら「現代アート」と言われているものらしいが、ただ、ビデオやカメラなどの機材が展示されていたり、日本人へのインタビューが上映されていたり、日本人による「MAVO」(大正時代の日本のアート運動)についてのトークショーが行われたり……。「これがアートなの?」と思いながらも(今となっては紛れもなくアートだったとわかるのだが)、この守谷の街にある廃校にさまざまな人々が集っている情景にノックアウトされ、「アーカスプロジェクト」とはいったい全体、何なのか、と興味津々になった。  それから3年、毎年、「アーカス通い」を続けている。

MAVOという大正期のアート運動についての日本人識者によるトークセッション。だが、これがイェン・ノーさんの「芸術」なのだという。当時の筆者には「なぜこれが芸術になるのか」がよくわからなかった
《マヴォについて話さない? 日本のダダ・ムーブメントのための、日本(現代)美術の位相の仮説プラットフォーム》
撮影:加藤甫

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現代アートはわからなくて当然
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