更新日:2026年05月03日 17:27
仕事

「働いても豊かになれない」のになぜ働き続けるのか。日本人が仕事を手放せない“根深い理由”

「働いても働いても豊かになれない」、そんな実感を抱く人が増えている。それでも、多くの人はたくさん働くことをやめない。  少子化で労働人口が減っているにもかかわらず賃金は上がらず、移民やAIがその穴を埋めていく。こうした状況の中で、私たちはなぜ働き続けてしまうのか。  生物学者・池田清彦氏が、経済構造と人間の価値観の両面からその理由を考える。 『人はなぜ働かなくてもいいのか』書影※本記事は、池田清彦氏著『人はなぜ働かなくてもいいのか』(扶桑社新書)をもとに再構成したものです

先進国で少子化が進むのは至極当然の流れ

少子高齢社会のイメージ

※画像はイメージです(以下同)

 少子化は日本に限らず、多くの先進国で見られる現象だ。  子どもがまったく死なないと仮定すれば、合計特殊出生率(一生の間に一人の女性が産む子どもの数の平均)が2であれば、理屈の上では人口は増えも減りもしないということになるが、大人になるまで亡くなる子どもの数は0ではないので、一般的には2.1くらいでないと人口は維持できないと言われている。  東アジアの国々の2025年の合計特殊出生率を見てみると日本は1.15、韓国は0.80、台湾も0.87、中国は0.98なので、2.1にははるかに及ばない。  アメリカは1.62なので、東アジアの国に比べたら高いけれど、それでも人口を維持できる水準には達していない。  女性があまり子どもを産まなくなったのは、教育水準が上がって社会進出が進み、子育てだけに人生のすべての時間を費やすのはバカバカしいと考えるようになったせいだろう。  自己実現や職業的達成を重視する価値観が広がって、出産や育児の優先順位が下がるのは、至極自然な流れだと言える。  さらに日本の場合、住宅費や教育費が高騰し、将来の所得の見通しが立ちにくいという状況もあり、子どもを持つことは大きな経済的決断になる。  それでも少子化を食い止めるべく子ども手当などさまざまな支援策が打ち出されていて、そのおかげで出生率が多少増えた地域もあるようだが、社会全体の流れを反転させるほどになってはいない。

既存のシステムにこだわるほど新たな緊張が生まれる

外国人技能実習生のイメージ そもそも出生率が下がった最も大きな理由が社会の成熟による価値観の変化にあるのだとすれば、子育て支援を多少厚くしたところで、出生率が劇的に上がるようなことにはならないだろう。  こうして人口増を前提に設計された既存のシステムを無理やり維持しようとする力と、個々人の合理的な選択とのあいだには、もはや埋めようのない乖離が生まれているのだ。  そんな中でも企業の短期的利益を極大化しようとすれば、日本人より低賃金で働き、また消費者にもなってくれる外国からの移民を増やすほかはない。  資本家の味方をしたい自民党政権は移民労働者の受け入れに熱心だが、単純労働を担う移民が急増すれば、地域社会との摩擦や文化的軋轢も生じかねない。  もはや不可逆的だとも言える人口減少という構造的変化に対し、従来型の拡大モデルを維持しようと躍起になればなるほど、新たな緊張が生まれるのである。
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労働人口が減っても賃金が大きく上昇しないという矛盾
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1947年、東京都生まれ。生物学者。東京教育大学理学部生物学科卒、東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻単位取得満期退学、理学博士。山梨大学教育人間科学部教授、早稲田大学国際教養学部教授を経て、現在、早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。高尾599ミュージアムの名誉館長。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。 フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『騙されない老後』『平等バカ』『専門家の大罪』『驚きの「リアル進化論」』『老いと死の流儀』(すべて扶桑社新書)、『SDGsの大嘘』『バカの災厄』(ともに宝島社新書)、『病院に行かない生き方』(PHP新書)、『年寄りは本気だ:はみ出し日本論』(共著、新潮選書)など多数。また、『まぐまぐ』でメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』を月2回、第2・第4金曜日に配信中。

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