更新日:2025年12月21日 18:29
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人間の「本来の」寿命は38歳!? 生物学の視点から見た「寿命の正体」とは

「人間の寿命は38歳で尽きる」。そう聞かされたら、あなたはにわかに信じられるだろうか。  平均寿命が80歳を超え、100歳以上の長寿者も珍しくない現代日本。しかし、生物学者・池田清彦氏によれば、人間が生物として本来持つ寿命(自然寿命)は、わずか38年しかないという。  では、なぜ本来は40歳前後で尽きるはずの命を、私たちはこれほどまでに延ばすことができているのか。そもそも、種の寿命はどのような仕組みで決まっているのか。そして、人類の「最終到達点」は何歳なのか。  池田氏に、生物学の視点から寿命の真実について教えてもらった。 『老いと死の流儀』書影※本記事は、池田清彦氏著『老いと死の流儀』(扶桑社新書)をもとに再構成したものです

人間の「本来の」寿命は38歳

シニア世代男女と現役世代男女

※画像はイメージです(以下同)

「本来の限界」というのは、生物が本来持つべき寿命、つまり自然寿命のことです。人間の自然寿命は何歳かわかりますか?  実は38歳です。これを読んでいる人の中には、すでにこの年齢を過ぎている方もいるのではないでしょうか?  自然寿命の根拠は次のようなものです。遺伝子の上流には「プロモーター」と呼ばれる、遺伝子の発現をコントロールしている部位があるのですが、ゲノム(非コード部分も含めた遺伝情報の総体)がわかっている252ほどの脊椎動物に共有されている42個の遺伝子のプロモーター内のDNAメチル化のしやすさ度合いが、種の自然寿命と相関していることがわかったのです。  DNAメチル化というのは、DNAの特定の部位に「メチル基」と呼ばれる小さな化学物質が付加される現象のことです。通常は遺伝子にメチル化が生じると、遺伝子は機能しなくなります。  プロモーターがメチル化すれば、遺伝子の発現をコントロールする機能に不具合が起きるようになり、老化の原因の一つになります。

実年齢とイコールではない“生物学的年齢”もメチル化で推定できる!

 メチル化は、DNAの上流からCpG(シトシン─リン酸─グアシン)と並んでいるCにメチル基が付着することで起きますが、CpGの密度が高いところではメチル化が阻害されることがわかっています。  そこでプロモーターのCpGの密度を調べると、密度が高い動物ほど自然寿命が長かったのです。  そうして推定された自然寿命はホッキョククジラで268年、ピンタゾウガメは120年、アフリカゾウは66年でした。  絶滅したケナガマンモスは60年、ネアンデルタール人やデニソワ人は37~38年で、ヒトも38年だったのです。ゴリラやチンパンジーもヒトとほぼ同じです。  ちなみに、自然寿命とは関係なく、ゲノム全体でDNAメチル化がどれだけ進んでいるかを測れば、その人の老化の度合い、すなわち生物学的年齢を推定することができます。  また、逆にメチル基がとれる「脱メチル化」が起こると細胞は若返ることが知られています。
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細胞分裂の回数にも実は限界がある
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1947年、東京都生まれ。生物学者。東京教育大学理学部生物学科卒、東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻単位取得満期退学、理学博士。山梨大学教育人間科学部教授、早稲田大学国際教養学部教授を経て、現在、早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。高尾599ミュージアムの名誉館長。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。 フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『騙されない老後』『平等バカ』『専門家の大罪』『驚きの「リアル進化論」』『老いと死の流儀』(すべて扶桑社新書)、『SDGsの大嘘』『バカの災厄』(ともに宝島社新書)、『病院に行かない生き方』(PHP新書)、『年寄りは本気だ:はみ出し日本論』(共著、新潮選書)など多数。また、『まぐまぐ』でメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』を月2回、第2・第4金曜日に配信中。

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