T-ARAイジメ騒動にみる韓国ネット世論の暴風【後編】
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ファヨンの契約解約の裏にメンバー間の不仲、イジメ説が囁かれている韓国のガールズグループ・T‐ARA(ティアラ)。依然として真相はヤブの中……のはずだが、ネット世論、韓国メディアのニュースサイトを覗くと、“イジメは事実としてあった”という説が強い。
「今回の一連の騒動を見ていると、韓国独特の社会、文化、国民性が表れていることがよくわかります。具体的には、ネチズンの存在、右へ倣えの精神、メディアの脆弱性です」
韓国芸能界で自殺が相次いでいる理由の一つに、ネチズン(ネット市民)の存在がある。整形、熱愛疑惑、セックス接待、兵役逃れの仮病――。それらはたいした根拠もなく感情論で叩いているだけのものも多く、異論、反論を受け付けない攻撃性は、鎮火することなく永遠に炎上し続けるのだから始末に負えない。今回のT‐ARA騒動の焦点となるのはファヨンに対するイジメの有無ではあるが、当事者による証言はいまだ上がっていない。過去の動画からの推測、そして捏造疑惑のある関係者証言(T‐ARAのバックダンサーを名乗る男性が、ファヨンが楽屋で殴られる現場を見たとウソの告白)から、「絶対に“クロ”」と断言。メンバーの写真が広告クライアントのホームページに掲載されようものなら、一斉に攻撃を仕掛け「写真を削除するまで手を休めることはない」と糾弾する。まさに「川に溺れた犬は棒で叩け」を地でいく激しさだ。
「韓国におけるネチズンの社会的地位は驚くほど高いのですが、その背景にあるのは、韓国人のマスコミ不信。日本でも“マスゴミ”とかいう言葉が一人歩きしていますが、その比ではありません。‘93年まで事実上の軍事独裁政権国家だった韓国では、報道規制が当たり前で、テレビ局や新聞社も政府にとって都合が悪いことは報道できず、資本的にも蜜月関係を築いていました(地上波3社のうち2つが半官半民と国営放送。最大株主は軍事政権国家時の大統領の娘)。韓国人はインターネットの出現で『ようやく真実が明らかになる!』と小躍りしたのですが、その弊害が目立つようになってきています」
そして、“鍋根性”ともいわれる右へ倣えの国民性がその流れに拍車をかけている。いま韓国のネット上では、ファヨン以外のT‐ARAメンバーを擁護するような言動自体がタブーとされる空気がある。
例えば韓国の俳優、アン・ジェミンがT‐ARAのウンジョンを「僕の知り合いのウンジョンはとても純粋な子です。寂しがり屋で芸能人のような性格ではありません~(中略)~時間が経てば良くなることを祈るよ」とツイートしたところ、「イジメられる人の気持ちを考えたことがありますか?」と即座に炎上、謝罪を余儀なくされた。また、イジメの証拠とされている動画のキャプチャー画面が「悪意をもって編集されている」と、ノーカットの動画をリンクすれば、特に検証されることもなく、“イジメ容認派”と一蹴されてしまう。
「日本では、ネット世論がここまで主流になることはまずありません。その大きな理由は、両国ではメディアのあり方が違うということ。日本ではネット世論とオピニオンリーダーの発言は別のモノとして捉えられるのが普通で、一つの事象についても、バランスよく議論が交わされるという土壌がありますから。今回の件でいえば、イジメの定義から始まって、もっと多様な意見が出てきてしかるべきだと思います」
日本では、大手メディアのニュースサイトに載った記事は、絶対的な真実とはいわないまでも、ある程度の信憑性をもって捉えられている。ところが、韓国大手メディアの記事を見ると、ネット上の噂話やサセンペン(私生ファン。芸能ゴシップ誌の類のない韓国では、タレントの私生活の情報は、個人的にタレントを追っかける、アルファブロガーのような一般人がアップする)のブログを構成して、そのまま記事として発表するケースが多い。そうした実情を知らないと、「大手メディアの記者が書いたニュースだから、ウラを取っているに違いない」と、特に日本人は誤解しやすい。実際、知人の芸能記者も今回の騒動について、「ソースは朝鮮日報だからどうやら本当のことらしい」と、自身のブログにリンクを貼っているのを見て、なるほどと思った。ネット発言の影響力に大手メディアも乗っかるような形で情報を発信するから、より大きな流れを作りやすいのだ。
本稿で主張したいのは、「ネット世論がここまで大きな声となって団結すると、もはや当事者たちの証言は必要ない」ということだ。ファヨンが何も言わずとも、ネット世論が「彼女の心の声」として勝手に代弁してくれる。事務所や現存メンバーが何を発言したところで、その声は怒声にかき消されるだろう。それは、事務所側が設けようとした「ティジンヨ」との対話の場を「話しあう必要はない」とティジンヨ側が一蹴しことからも明白である。
現在、T‐ARAは歌手・女優業をはじめとするすべての活動を中止し、広告から降板している状況だ。圧倒的多数であるネット世論が、少女たちに対して「完全に解散するまで攻撃の手を緩めない」というのであれば、それはそっくりそのまま、“いじめる側の論理”にあてはまるだろう。数少ない状況証拠を理由に、「いじめの加害者だったのだから、当然の報い」とは“いじめる理由”として正論となりえるのだろうか? ネット世論という多数派が持つ影響力の大きさを、いま一度、冷静に自問すべきだと思う。 <取材・文/スギナミ>
※参考文献
『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(小野田 衛・著 扶桑社新書 本体720円+税)
日本の若者たちはなぜK-POPに熱狂するのか?日本人が知らない韓流ビジネスの正体、韓国芸能界の裏側を徹底した現地取材をもとに考察
『韓流エンタメ 日本侵攻戦略』 韓流エンタメの真実 |
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